人事部 タレントマネジメント室 担当次長 長澤 琢弥さん
デンソーの経営リーダー育成施策に迫る——異動や海外赴任にあわせてコーチングを活用する狙いとは?
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100年に一度の変革期といわれる自動車業界において、「実現力のプロフェッショナル集団」を目指す株式会社デンソー様。人と組織のビジョン&アクション「PROGRESS」を掲げ、人事変革に取り組んでいらっしゃいます。
業界の大きな変化のなか牽引役となる経営リーダーを輩出するため、同社では様々な育成施策を実行していますが、その一つとして2023年よりコーチングを導入しました。今回は、人事部タレントマネジメント室 長澤琢弥様に、コーチング導入の背景や成果について伺います。
デンソーの経営リーダー育成を支える「タレントマネージャ」の存在
デンソー様の人財育成の方針について教えてください。
長澤さん:当社は1949年の創業以来「人」を最重要経営資本と位置付け、人の「実現力」を絶え間なく積み重ねてきた結果、世界初の技術や製品を生み出してきました。
そして昨今、自動車業界を取り巻く環境は大きな構造変化を迎え、モビリティ社会という新たなステージに入りました。より多様なお客様の価値創造に貢献できるように、「実現力」をさらに一段上げていく必要があると考えています。
そのため、2021年から「PROGRESS」という人と組織のビジョン&アクションを掲げ、「人」は情熱で自己新記録に挑むプロに、「組織」は多彩なプロが出会い・共創する舞台になることを目指しています。
プロフェッショナルという言葉を、デンソー様ではどのように定義していますか?
長澤さん:当社では、プロフェッショナルの姿を3つ定義しています。グローバルデンソーを牽引する「経営」のプロ、デンソーを支える様々な専門性を高め磨く「領域」のプロ、そして多様な個性・価値観・経験をもとに活躍する「多彩」なプロです。一人ひとりが主役であると考え、それぞれのプロフェッショナルが支え合いながら組織を作っています。
私はそのなかで、「経営」のプロである経営リーダーの育成に携わっています。
「経営」のプロに関して、経営リーダーの育成をどのように進めているのでしょうか。
長澤さん:経営リーダーに求める力として「構想力」「実現力」「人間力」の3つを定義し、これら3つの力を偏りなく備えるために、職場・経営層・人事が三位一体となって人財育成を進めています。
特にシンボリックなのは「人財開発会議」です。グループ・センター・本部・地域毎に、そしてグローバル全体で、あわせて年20回以上実施しています。そこでは、経営リーダー候補である「人」と、全社経営への影響度が高い「コアポスト」、そしてそれらを掛け合わせた「サクセッションプラン」を経営層ときめ細かく協議しています。さらに、グローバル全体の共通課題を振り返り、次年度の方向性を定めていくことを3年間続けてきました。
経営リーダーを育てるために、「タレントマネージャ」という役割を設けていらっしゃると伺いました。どのような役割を担っているのでしょうか?
長澤さん:職場・経営層・人事が三位一体で経営リーダー育成に取り組んでいるというお話をしました。そのなかで人事の一員として、この取り組みを専任で担っているのがタレントマネージャで、私は3年前に初代を拝命しました。
タレントマネージャの役割は、大きく3つあります。1つ目は、「その人らしさを深く把握すること」です。候補者との面談で特性診断の結果を一緒に読み解きながら、その人の価値観やモチベーションの源泉、リーダーシップスタイル、ストレス・プレッシャー下での傾向などについて話しています。そして、ありたい姿と現状のギャップを、本人の生の声を聴きながら理解するようにしています。
2つ目は、「テーラーメイドな育成提案」です。長年培ってきた育成施策のラインナップを引き継いで進化させ、一人ひとりの期待と課題に合わせた育成施策を組み立てます。社内の研修や社外のプログラムといったいわゆるOff-JTに加えて、OJTとしてタフアサインメントも人事として提案していきます。もちろん、その内容は私だけでは偏りが出てしまうため、経営リーダー育成チームのメンバー、人事担当役員や人事部長を交えて、かなりの時間をかけて協議しています。
そして3つ目は、「継続的な伴走」です。タレントマネージャとして責任を持ち、候補者や職場と関わり続けるようにしています。
2023年より、テーラーメイドな育成施策の一つにコーチングが加わりました。継続的に伴走するなかで、異動や海外赴任など大きな変化を迎えるタイミングでコーチングを提案しています。
タフアサインメントに挑む経営リーダー候補に、なぜコーチングを提供するのか
経営リーダー育成におけるプログラムの1つとして、コーチングを導入された背景を教えてください。
長澤さん:全社の経営リーダー候補を全社フィールドで育成していくために、テーラーメイドな育成施策の一環として、グループやセンターを超えた大きな異動や海外赴任などのタフアサインメントを提案・実施しています。
当然ながら本人にとっては、これまでの経験や専門性と大きく異なるフィールドへの異動となるため、不安も大きいはずです。それでも挑戦する意味や価値を、内省しながら言語化し、自分の中で昇華してもらいたいという狙いがあります。ただ、それは本人の力だけでは難しいと考え、異動や海外赴任などのタフアサインメントにあわせてコーチングを導入することを決めました。
本人がもともと所属していた部署、そして異動先の部署、これら2つとはまた異なる“サードプレイス”として、コーチングを位置付けたいという想いもあります。特に海外赴任となると、多様性をマネジメントするうえで大きな自己変容も必要となります。だからこそ、プロフェッショナルのコーチの力をお借りして、自ら内省し変化していくことを支えたいと考えたのです。
デンソー様の経営リーダー育成では初めての取り組みだったと思いますが、導入に踏み切った決め手はありましたか?
長澤さん:私自身がmentoさんでコーチングのトライアルを受け、明確にその効果を実感できたというのが大きな理由です。正直なところ、最初は半信半疑でした。
しかし、コーチがさまざまな角度や観点から問いを立ててくださり、それを繰り返すうちに自分らしさや軸がだんだん客観的に見えてくるようになりました。そして、コーチの問いから自分の思考が広がり、時にその思考が枠を超えていくことも体感しました。
これは、自分らしさを再確認しつつ、枠を超えることが求められる経営リーダー候補の支えになるに違いないと確信したのです。
異動や海外赴任に臨む経営リーダー候補にコーチングを受けてもらうことで、どのようなインパクトを期待していらっしゃいますか。
長澤さん:部門長までは積み重ねた経験が力になりますが、経営層になると自らの経験だけではミッションを遂行することは難しいです。環境や状況が大きく変化するなかでは、時に経験が妨げになることもありえます。前例や実績のない新たなことに対して意思決定をする役割だからこそ、自分の中に軸を持ちながらリーダーシップの幅を広げていくことが必要と考えています。
その方法の一つとして、自分らしさを客観視したり、再構築したり、新たな自分を発見したりするためにコーチングは非常に有効だと思います。
mentoのテーラーメイド型のコーチングで、リーダーシップの幅が広がる
コーチングを導入する際、mentoをパートナーに選んでいただいた理由をお聞かせください。
長澤さん:タレントマネージャのミッションの1つに「テーラーメイドな育成提案」があると、先ほどお話ししました。mentoさんは、まさにテーラーメイド型のコーチングを提案・提供してくださったので、我々の育成の考え方にマッチすると思いました。
導入前にトライアルを受けた時にも、「コーチング」の施策だけを全面に押し出すのではなく、当社の状況や課題を確認いただき、それに合わせて進めていただきました。導入後の中間フォローや座談会、アンケートやインタビューの振り返りまで、一貫してきめ細やかに、そして的確に伴走していただけたと思っています。
コーチングを取り入れることで、実際にどのような変化が起こっていますか?
長澤さん:キーワードは「越境」です。従来の研修とは異なるコーチングという手法を取り入れることにより、「自分の枠を超えることができ、マネジメントのスタイルが変わった」「まだ見ぬ自分との出会いがあった」という声を聞いています。その変化は本人だけでなく周囲にもわかるほどで、中には「あんなに変わると思わなかった」と上司が驚くほど、言動に変化が見られたケースもあります。
その方は、具体的にどう変わったのですか?
長澤さん:機能部門から事業部門に異動した社員の話です。
機能部門と事業部門は、時にいい意味で意見を闘わせることもあります。これまで機能一筋でキャリアを歩んできたその社員にとっては、事業部門への異動は大きな自己変容を求められた訳ですが、コーチングによって新たな気づきを得られたことで、いまではすっかり事業部門の「顔つき」に変わりました。
彼に関わらず、大きな異動では、これまで培ってきたスキルを置いていかざるを得ません。スキルで押せない以上、自分自身の在り方が問われる。そういった不安からスタートする時に「コーチの存在は拠りどころになった」という声も聞いています。
もし、コーチの存在がない状態でタフアサインメントを受けた場合は、どうなっていたと思いますか?
長澤さん:おそらく、新たなスキルを体得する方向に行ったと思います。それもひとつのアプローチであり、決して間違いではありません。一方で、リーダーシップの変容は生まれなかったのではないかと思います。経営リーダーに求められるのはスキルというよりは、正しい意思決定や、メンバーが見えていないことを捉えて導く力です。タフアサインメントにコーチングを掛け合わせたことで、リーダーシップが変容する確度が高まったと考えています。
育成施策が経営リーダー候補の「実現力」にどうつながるか、変化を追っていく
これから、コーチングをどういう人に提案していきたいですか?
長澤さん:これまでの取り組みから、異動や海外赴任など環境の変化と、自己効力感の変化があるときに、コーチングが有効だと見えてきました。自己効力感についてもう少し詳しく説明しますと、自己評価と周囲からの評価にギャップがある時、特に周囲からの評価の方が下回っている場合に自己効力感が下がりますよね。そんな時こそ、コーチングを受けるいいタイミングだと思います。
ですから、大きな環境変化を迎える人だけではなく、同じ部署にいるもののギャップが生じてしまっている人にも、コーチングを提案していけたらと考えています。タレントマネージャとして伴走する中で、コーチングを受ける適切なタイミングを見極め、提供していきたいですね。
最後に、今後の展望を教えてください。
長澤さん: その人らしさを捉えて引き出し、輝かせたいというのが私の想いです。この3年間でその手応えを少しずつ感じているところです。次なる進化のステージとしては、日本だけではなくグローバル拠点でも、この取り組みを拡大させていきたいです。