
総務人事部長 長尾 憲二さん(左)
総務人事部 総務人事グループ 中江 利佳さん(中央)
総務人事部 総務人事グループ 京田 尚子さん(右)
「OJTに強い会社」で、人材獲得競争力を高める――「マネジメントAI」導入で、人材育成力と働きがいのある会社に
INDEX
半導体・電材・光学分野に使用されるプロテクトフィルム、電子部品製造工程用フィルムなどの産業用フィルム・シートといった、幅広い分野にソリューションを提供する三井化学ICTマテリア株式会社。約300名が在籍し、三井化学グループの成長を担う事業会社です。
同社は、会社の成長を実現するためには社員一人ひとりの成長が不可欠という考えのもと、人材開発施策を検討・展開してきました。その中で、社員の成長に最も効果が高いのはOJTであると理解している一方、提供する人材開発施策が研修などのOFF-JTに偏りがちである点に問題意識を持ち、2025年からは「OJTに強い会社を作りたい」というテーマを掲げるようになりました。
OJTの質を高める上で上司の影響は非常に大きく、最適な仕事のアサイン、仕事の意味付け支援、適宜適切なフォローとフィードバックなど、きめの細かいマネジメントが期待されます。しかしながら、 テレワーク定着によるコミュニケーション機会の減少や、上司自身が超多忙なプレイヤーとなっている状況など、きめの細かいマネジメントの実行を困難とする 複合的な課題が見えてきました。
この課題の解決に向け、2026年5月より「mentoマネジメントAI」の試験的な導入を決断。前例のない取り組みを進めるにあたり、導入に対する懸念をどう乗り越え、現場の声をどう拾い上げていったのか、総務人事部の長尾さん、中江さん、京田さんにお話を伺いました。

出発点はマネジメント課題と「人材育成に強い会社にしたい」という想い
はじめに、組織の状況やマネジメントが抱えていた課題について教えてください。
長尾さん:
当社の事業は右肩上がりに急成長しているのですが、組織の拡大に伴ってマネジメントの課題が浮き彫りになっていました。キャリア採用の増加により様々なバックグラウンドや価値観を持つ社員が増えていく一方で、 テレワークの定着など働き方の変化も影響し、社員の関係性の希薄化が進行しました。また、事業が成長しているにも関わらず、エンゲージメントスコアは停滞し、若手の退職といった問題も発生していました。
そうしたなかで私が考えていたのは、「人材育成に強い会社にしたい」、「OJTに強い会社を作りたい」ということです。人材育成に強い会社になれれば、事業の成長だけではなく働く社員が自身の成長を実感し、 当社で働くことに対してより強い意義を感じてもらえるはずだと考えていたのです。
現場の管理職の方々は、どんなことに困っているのでしょうか。
長尾さん:
マネジメント支援の「武器」としてこれまでOFF-JT(研修)を主として提供してきましたが、 研修で学んだことは「わかる」ものの、現場に戻ると業務も忙しく、なかなか慣れ親しんだ自分の考え方やスタイルを変えることができないと聞きます。その結果、組織のパフォーマンスやエンゲージメントスコアに有意な変化が現れず、どうすればよいか悩むことになります。
他にも部下との1on1を実施することや組織の心理的安全性を高めることが大事だと知ってはいるものの、リモートで働きぶりが見えないなかでどうマネジメントしていいか分からないことに困っているという現状がありました。
このままの状況だと、どんなことが起こるという危機感を持っていたのでしょうか。
京田さん:
事業が急成長していて多忙ななかで、管理職も目の前の数字を追いかけるところに注力せざるを得ないことがあります。そうすると、1on1でも業務の話に偏りがちになり、若年層が先々のキャリアを考えにくくなってしまいます。今の組織のなかで、先々を見据えた丁寧なコミュニケーションが取れているかというと、必ずしもそうではないと感じることがありました。
中江さん:
世の中でも若手社員が「管理職になりたくない」という傾向が強くなっているといわれています。当社でも、現状のままでは将来的に管理職を担いたいと感じる人が減ってしまい、やがて組織が回らなくなってしまうのではないかという危機感がありました。
そんななか、マネジメントを支援することで「OJTに強い会社を作りたい」というお考えがあるのですね。
長尾さん:
人事の世界では「ロミンガーの法則」として、人の成長の7割は仕事経験から、2割は他者からの薫陶、1割が研修からと言われています。ところが人材開発の施策となると、どうしてもOFF-JT、つまり研修中心の年間計画になりがちです。人事として「大事なのはOFF-JTではなく現場での経験です」と言いながら、実際に現場に渡せている武器は研修だけ、というのは矛盾しているとずっと感じていました。人の成長に最も効果的な「仕事経験の質を高めるためのツール」を武器として現場に渡せるようにしたいという想いがあったのです。
働き手が会社を選ぶ基準が、「大きくて安定している会社かどうか」から「そこで働くと成長できる会社かどうか」へと加速度的に変化しているように感じており、成長実感の提供こそが今後の人材獲得競争力のカギになっていくと思います。働きがいや充実感を社員が感じられることで優秀な人材が集まり、活躍し続けてくれることになり、結果的に事業の成長にもつながるはずです。

「マネジメントAI」に感じた驚き、そして現場の声を起点にした合意形成
そうした課題感のなか「マネジメントAI」をご紹介させていただきました。最初に説明をお聞きいただいたときの印象はいかがでしたか。
長尾さん:
説明を受けたときには「こんなことができるのか」と素直に感心しました。当時はまだ、AIがマネジメントのような複雑な領域には入り込めないだろうと思っていたのです。だからこそ衝撃が大きく、「管理職の役割はどうなってしまうのだろう。AIに奪われてしまうのか」という気持ちにすらなりました。それくらいインパクトのある内容でした。
中江さん:
プレイングマネージャーが多く、部下の人数や業務の忙しさもさまざまな中で、管理職が一人ひとりの状態を把握することは簡単ではないと感じています。「マネジメントAI」は、忙しい管理職であっても、部下一人ひとりの状況や変化を把握しやすく、さらに定量的なフィードバックも得られる点に価値を感じました。
京田さん:
人間の特権だと思っていた領域を、AIがここまでできるのかという技術的な驚きがありました。上司と部下の関わりの質を高めるには1on1のスキルが必要ですが、上司がそのスキルを継続的に学ぶ機会をつくるのは現実的に難しいです。「マネジメントAI」は、マネージャー一人ひとりの1on1のスキルに関わらず、メンバーの一次的な情報収集や内省支援を定期的に行ってくれます。これは画期的だと感じました。
他のツールや手段とは、比較検討されましたか?
長尾さん:
目標設定の精緻化を支援するサービスを検討したことがありました。マネジメント課題として、目標設定のレベル合わせやコミットメントは本当に難しく、1年経って評価する段階で「達成したか、していないか」でもめてしまうケースもあるからです。ただ、目標を精緻に握るというテーマは、研修や説明会でもある程度カバーし得るとも思いました。
一方、「マネジメントAI」が提供してくれる「管理職が部下とのコミュニケーションのなかで本当に必要としている情報」は、研修だけでは絶対に届けられないものです。そこに価値を感じて、「マネジメントAI」を選びました。
「マネジメントAI」導入決定に至るまでのプロセスについて教えてください。
長尾さん:
2025年6月に「マネジメントAI」導入について、副社長への説明を行いました。そこで「一般論としてマネジメント支援の必要性は理解できる。しかし、このサービスに対して社内に本当にニーズがあるのか」という指摘を受けたのです。コスト面の慎重さもありましたし、「コーチングを受ける時間など、むしろ現場の負荷が増える部分もある。それを上回る効果を本当にイメージできるか」という問いかけもありました。そこで、現場の声を丁寧に聞くことにしました。
具体的には、どのように現場の声を拾っていったのでしょうか。
長尾さん:
7月から8月にかけて、4名の事業部長と部門長へのインタビューを実施しました。9月には研究開発部門とプロテクトフィルム事業部でメンバー層への説明とヒアリングを行っています。「正しく情報を伝え、現場の声を拾ってから判断する」というスタンスで、丁寧にプロセスを進めていきました。
実際にヒアリングをして、どんな手応えや気づきがありましたか。
中江さん:
研究開発部門は若手社員が多いこともあり、AIに対する心理的な壁がほとんどないことが確認できました。さらに、「こんな使い方もできますか」といった質問も多く出るなど、デモを通じて可能性を前向きに捉えていただいている様子が印象的でした。また、事業部長・部門長へのヒアリングにおいても、AIコーチングに対する考え方や人材育成への想いをじっくり伺うことができ、組織としての育成への意識の高さを改めて感じました。
京田さん:
人事主導で進めるのではなく、現場の声を聞き、導入意思のある部門から始めるという方法に踏み切りました。部門長や事業部長が集まる場で丁寧にコンセンサスを取っていきましたし、現場に対しても何度も説明する機会を設けました。それにより、「現場のために必要なことなんだ」という意識が少しずつ浸透してきたように感じます。
最終的に、どのような形で導入の合意形成をされたのでしょうか。
長尾さん:
エンゲージメントサーベイ後のアクションプランの一つとして、部門単位で「マネジメントAI」を導入することになりました。
これまでは「ICTマテリア全体でこれをやる」と一律でアクションプランを決めて実行していたのですが、エンゲージメントに響く要素は突き詰めていくと個人ごとに異なります。そこで、できるだけ施策を展開する組織単位を細分化したほうが効果的だと考え、部門単位でアクションを設計することにしたのです。
そのうえで、サーベイ結果を受けて「マネジメントAI」を使いたいという意思のある部門について、導入の上申をしていきました。このように、サーベイの結果と現場の声をきちんとヒアリングして合意形成を進めていったことで、前例のない取り組みを始められることになりました。

組織を変える「良質な問いを立てる文化」の醸成
「マネジメントAI」の活用を通じて、現場にどんな変化が起きてほしいと期待されていますか。
長尾さん:
まずは、コーチングのようなコミュニケーションが、自然に発生してほしいと考えています。当社の社長である才本は、よく「自問自答」という言葉を使います。そのときに良質な正しい問いを立てられるかどうかが、次のアクションを大きく左右するからです。
これから「マネジメントAI」を活用することによって、これまでとは違う思考回路で自分自身に問いを立てられるようになるでしょう。そして、問いの立て方が他者とのコミュニケーションにも活かされていきます。さらにコミュニケーションの質が変わってくれば、行動も、組織の文化も変わっていくはずです。それが、私が期待するファーストステップです。
中江さん:
私自身も、今回いちユーザーとして「マネジメントAI」を利用します。個人的な期待としては、普段の業務に対する思考や頭の使い方をAIコーチングに頼りながらレベルアップしていきたいです。そして人事としては、「マネジメントAI」を現場に活用してもらうことで業務の効率化につながればいいと期待していますし、現場がしっかりと活用できるようサポートしていきたいと考えています。
京田さん:
「コーチング」というアプローチが組織に入ること自体が、新しい取り組みだと考えています。今、上司が部下にとっているコミュニケーションは、コーチングというよりはティーチングやメンタリングが中心になりやすいと考えています。そしてAIの活用によって業務効率化につながっている一方で、「自分で考える機会」自体は減ってきていると感じています。
そんな時代だからこそ、自分自身がどう考え、どんな前提に立ち、何をやりたいのか、自己理解を深めるための大事なツールになるのではないかと期待しています。
現場の変化によって、管理職の業務にはどんな変化が起きると思いますか。
長尾さん:
管理職の本来の仕事は何か、その本質は何かを、改めて考えていく必要があります。「マネジメントAI」の活用によって空いた時間ができたからといって、管理職がその時間でプレイヤーの仕事をしたり、今までの業務を高速でこなしたりするのでは、意味がないと思います。
AIに支援してもらったうえで、自らの働きかけによってチームのパフォーマンスをどう変えていくのか、その試行錯誤に時間を割けるようになることを期待しています。当社にとって新しい取り組みになりますから、管理職には「これからのAI時代のマネジメントはこうあるべきだ」という自分なりの考えを持ち、それを社外で語れるくらいのノウハウを蓄積してほしいと思っています。

中長期的な展望――「OJTに強い会社」とグループ全体への波及
中長期的に「マネジメントAI」をどのように活用していきたいか、お考えを聞かせてください。
長尾さん:
今回はまず2部門で100名への展開ですが、最終的には全社への展開も視野に入れています。今回トライアルを展開している対象者の意見、エンゲージメントスコアの変化等を見て検討していきたいと考えています。
もう一つ、私が期待しているのは、ここで得られた知見をどう組織全体の知見に変えていくかです。「マネジメントAI」を通じて見えてきた課題に対して「これでうまくいった」という知見が一部の組織で閉じるのではなく、全社的に知見が蓄積されていくような仕組みをつくっていきたいですね。
with AI時代、マネジメント領域にAIをどう活用し、どんな組織を作っていきたいと考えていらっしゃいますか。
長尾さん:
先ほどお話ししたように、働きがいややりがいが、人材獲得や組織づくりのベースラインになる時代が必ず来ます。だからこそ、私はOJTに強い会社をつくることで、今後の人材獲得競争力や事業の成長力を高めていきたいと考えています。
もうひとつ、「マネジメントAI」をきっかけに、当社で起きたいい変化が、いずれは親会社である三井化学にも逆に浸透していったら面白いと考えています。本当にいいモノであれば、グループ全体に広がっていく可能性は十分にあると感じています。グループ会社から新しいことを始めて、それが親会社も含むグループ全体に波及していく文化も作っていきたいです。
OJTに強い会社の実現に向けて、「マネジメントAI」は、その中核となる取り組みです。これからも、現場と一緒に試行錯誤しながら、人を育てる文化を当社に根付かせていきたいと考えています。




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