
ITエンジニアリング本部 本部長の大久保さん(右)
事業推進本部 コミュニケーション推進部 部長の山際さん(左)
急拡大に伴う管理職の負荷増をどう乗り越えるか? 「マネジメントAI」活用で図る対話の最適化
INDEX
パーソルグループのテクノロジー事業における中核企業として、ものづくり領域、IT領域、そしてセキュリティ、AI領域などにおいて、質の高いサービスを提供する、パーソルクロステクノロジー株式会社。
事業成長にともないエンジニアの数も急速に増えるなか、同社はかつて、1人のマネージャーが大勢のエンジニアを担当するスパン・オブ・コントロールがアンバランスな状況になり、エンゲージメントや離職率に課題が生じました。
その後、マネージャー育成に注力し、一定の改善成果が出たものの、それでも解決しきれなかった課題と向き合うため、mentoのマネジメントAIを導入。その背景やねらい、導入プロセス、今後の展望などについて、 ITエンジニアリング本部 本部長の大久保さんと、事業推進本部 コミュニケーション推進部 部長の山際さんにお話を伺いました。
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1人で数百人をマネジメント。エンゲージメントや退職率に課題
まずは、マネジメントAIを導入された背景からお伺いさせてください。どのようなお困りごとがあったのでしょうか?
大久保さん:大きく分けて2つの課題がありました。ひとつは、1人のマネージャーが見るメンバーの数が非常に多かったことです。3年前、私たちの組織には約1,000人の社員がいるなかで、対するマネージャーの数が少なく、1人で100人以上をマネジメントするという状況もありました。
もうひとつは、マネジメント基盤を固めていくために人数を増やす必要があるなかで、ただ人数を増やすだけでなくマネージャーを育成し、品質のバラつきがないようにしていく必要もあったことです。
マネージャーの少なさによる課題はありましたか?
大久保さん:一番わかりやすい課題は「退職率の高さ」でした。当社はSES(システム・エンジニアリング・サービス)を提供しており、エンジニアは客先常駐が基本であるため、普段からマネージャーとの接点が少ないんです。「マネージャーは忙しそうだし、自分のことをわかってくれていない」というコミュニケーションの希薄さが原因となって遠心力が働き、エンゲージメントの低下と高い退職率につながっていました。
山際さん:当時は適切なスパン・オブ・コントロールの目安を設定していましたが、マネージャーを増やすのも容易ではなく、解決策を模索し続けていましたね。

マネージャー育成、1on1の導入で退職率が改善傾向にあった
そこからスパン・オブ・コントロールを適正に近づけていくために、マネージャーを増やしつつ、mentoのマネジメントコーチを導入するなどマネージャー育成にも力を入れてこられました。どのような変化がありましたか?
大久保さん:エンゲージメントが向上し、退職率も低下傾向にあります。また、定期的なサーベイの結果「組織との距離感」に関する項目が顕著に改善されました。「組織が自分のことをわかってくれようとしている」という声や、横のつながりのコミュニケーションが増えたといったポジティブな反応がありました。
エンゲージメントを上げるため、スパン・オブ・コントロールの適正化以外に取り組んだことはありますか?
山際さん:マネージャーを含むリーダー職には、エンジニアメンバーと3ヶ月に一度の定期的な1on1を実施してもらっています。取り組み始めてから約3年が経ち、かなり浸透してきました。また、各エンジニアには毎月「業務報告」を提出してもらっています。ただ、文章だけだと中身を把握するのは大変なので、文章以外にもスコアも入れてもらうようにしています。そのスコア次第ではマネージャーにアラートがあがり、それに応じてコミュニケーションをとるようにしています。
それでも残っていた課題の解決に向け、マネジメントAIを導入
さまざまな施策を打たれ、成果もあげられています。それでも未解決の課題が残っているからこそ、mentoの「マネジメントAI」を導入いただいたのだと思いますが、どのような課題がありましたか?
大久保さん:スパン・オブ・コントロールが改善されたとは言っても、マネージャーが担当するメンバーの数が多いというのは、SES業態ではよくある傾向ではあるものの、やはり一般的な水準からはかけ離れていますし、1on1についても3ヶ月に一度が物理的な限界です。これ以上頻度を上げると、調整時間だけでマネージャーの時間がパンクしてしまうからです。しかし、3ヶ月という頻度はコミュニケーションとしては長すぎます。
これらの課題を従来のHRテクノロジーだけで解決するのは難しいです。また、コミュニケーション量ではなく「質」で解決していきたいものの、誰がマネジメントするかによるスキルのバラつきがあります。そのような現場を直接支援する「ラストワンマイル」の解決策として、マネジメントAIに大きな期待を感じました。
メンバーに目が向きがちだけど、マネージャーやリーダーにもすごく負担がたまっているからこそ、声を可視化して拾い上げてフォローしていきたいという思いがあるんですね。そんななか、マネジメントAIに対してどのような可能性を感じていただいていますか?
山際さん:コーチがAIなので、時間にとらわれずいつでもコーチングを受けられるというのがひとつのメリットだと感じました。マネージャーと話したいと思っても、予定がなかなか押さえられないとか、あるいは相手が人間だとどうしても言いにくいことが出てきます。最終的に上司へレポートを送信する際も本人が添削できるということも含めて、AIコーチングの良さを感じていました。
大久保さん:最初は、AIコーチングによってマネージャーがメンバーと1on1をする頻度やその工数を下げられると考えましたが、そうではなく1on1の頻度を維持しながらもメンバーの情報が日常的に集まり仮説が増えるため、一度の1on1での対話の質も高まると考えるようになりました。

導入プロセスで「経営計画との繋がり」をもとに合意形成
次に導入プロセスについて伺います。他の手段とマネジメントAIとの比較はされましたか?
大久保さん:1on1の質を高めるため、ログを残して過去を振り返ることができるよう1on1の管理ツールを使っていました。ただ、1on1の質を高めようと一歩踏み込もうとすると、結局マネージャーが能動的にログを読み込みにいく必要がありました。そのための時間の確保が課題になるだけでなく、そもそもどういった観点でログを解釈してアクションすべきかという判断の難易度も高かったんです。
その点、マネジメントAIはログだけでなくもう一段先の「示唆」を与えてくれます。ここに魅力を感じ、決め手のひとつになりました。
導入プロセスで苦労された点はありますか?
山際さん:パーソルグループとして、外部サービス利用については厳しく審査しています。またAIの利用についてはガイドラインを整備中というのもあり、前例があまりないなかで、関係部署と調整しながら進める必要がありました。そこで、「どのように情報が扱われるのか」「どこに情報が保存されるのか」「誰がアクセスできるのか」「情報は削除できるのか」などを御社とともに一つひとつ確認し、解決していきました。
もともと人材を中心にサービス展開されているパーソルグループだからこその厳しい基準があったなかで推進いただき誠にありがとうございます。セキュリティ面以外に、導入の是非を議論したことはありますか?
大久保さん:最初は管掌役員も「結果的に何が変わるのか?」「意味はありそうだけど、目的は何か?」と懐疑的なスタンスでした。そこで今回のねらいは「1on1の回数ではなく質の向上」「では質が目的であるならエンゲージメントはどのくらい変わるのか?」「そのエンゲージメントは結果的に何に効いてくるのか?」と目的を言語化していきました。
また、ゆくゆくは全社展開することも視野にいれながら、人事も巻き込み試行錯誤しながら対象範囲を定めました。
最終的に、導入の意思決定にいたったポイントは何ですか?
大久保さん:当初は管掌役員に対して目的と成果の繋がりを十分に説明できていなかったんです。そのため、管掌役員の目には単に新しいものに飛びついているだけのように映ってしまったのかもしれません。特に、中期経営計画の重要課題である「定着率・退職率の改善」の一環であることを伝えられていませんでした。最終的に、そこを正しく理解してもらえたことが「イエス」に変わったポイントです。
ROIについては問われましたか?
大久保さん:問われました。しかし、「現時点では明確なROIはないです」と言い切りました。
少なくとも今年度中に短期的に数字として出るような性質のものではないですし、「エンゲージメントが上がれば、必ず退職率が下がる」といった単純な因果関係で語れるものでもないと考えているからです。
一方で、仕事にやりがいを感じているエンゲージメントが高い社員のほうがパフォーマンスが高いのは、疑いようがないですよね。マネジメントAIでエンゲージメントを改善した結果として、後から「売上が上がった」「退職率が下がった」と言える日は来るかもしれませんが、それはあくまで結果論だと思います。
エンゲージメントや離職率に直接的に紐づけすぎると、それが生まれるまでの時間軸との兼ね合いで正しく振り返ることができないと考えられたんですね。
大久保さん:そうですね、今回、スモールスタートとして対象範囲を定めてマネジメントAIを導入しながら、そのなかでエンゲージメントやパフォーマンス、退職率などに対してポジティブな作用がありそうか、そのうえでどの範囲で使っていくのが良さそうか、というのを長期的に判断していくことになると考えています。

1on1とAIコーチングの使い分けで見えてくる「本音」のギャップ
実際にマネジメントAIを活用してみて、感想はありますか?
山際さん:良い点は、普段の1on1がどうしても業務の話にフォーカスしがちな分、そこで聞けていないことをAIコーチングが補完して問いかけてくれることです。また、そのAIコーチングの内容がウィークリーレポートとしてマネージャーに送られることで、「対面では元気そうに見えるけどマネジメントAIのレポートを見ると意外と本音としては疲弊しているんだな」という、表層と本音のギャップがあることを掴めます。そのギャップに対してマネージャーがアプローチしていくことで、新たな気づきや変化が出てきます。
大久保さん:私も事前にウィークリーレポートを見てから1on1に臨みます。たとえば、普段は元気に振る舞っているメンバーでも、AIのレポートでコンディションが下がっていることがわかれば、最初の声かけを工夫しながらなめらかに会話に入っていけます。このように、人間同士だとつい隠してしまうような本音やネガティブな兆候を、AIがキャッチしてくれるのは非常に助かっています。
レポートの内容で意外だったことはありますか?
大久保さん:先日、自チームのメンバーが異動になったとあるマネージャーが、対面では「応援しています」と言ってはいたものの、AIコーチングでは「実は突然のことでショックを受けている」という本音を吐露していました。そのギャップを掴めたからこそ、じっくりフォローすることができました。
山際さん:「ペットを飼い始めた」とAIコーチに話していたメンバーが居たらしいんです。私は直接聞いてはいなかったのですが(笑)。もっと打ち解けられていたらそのエピソードを話してもらえていたのかもしれません。「AIには話せても、私とはまだ打ち解けられていないのかも」という危機感を覚えながら、ある種の内省機会になりました。

マネジメントAIの活用浸透には「人間臭い」進化に期待
今後のマネジメントAIに、どのような進化を期待しますか?
大久保さん:今後はAIコーチングだけでなく、目標設定や人事考課にも活用できるようになると嬉しいと考えています。目標の設定から、期中での達成に向けたコミュニケーションをマネジメントAIが伴走してくれるような未来を期待しています。
山際さん:私はAIにもっと「人間臭く」なってほしいです。相手がAIだと、「まあ今日はやらなくていいか」という感覚で、AIコーチングを使わないようなこともあるかもしれません。「AI相手だけど、無断でキャンセルしたら悪いな」と思えるような、もっと話したくなるような人間臭いAIに進化してもらえると、より活用も進むと考えています。
中長期的には、社内でどのように活用していきたいと考えていらっしゃいますか。
大久保さん:まだ導入直後というのもあり、マネジメントAIを活用している人・していない人のブレがあります。なので、まずは活用率を高めることが直近のテーマです。
その後の活用では、縦・横それぞれでの社内展開を考えています。
まず、自組織での縦の展開について、現在、自組織ではリーダー層までが活用しているので、メンバーまで活用を広げられればと思います。
次に、社内での横展開について、隣接したものづくり系エンジニアリング組織もありますので、そちらにも展開していきたいと思っています。
また、当社の組織のなかでも、私たちのITエンジニアリング本部は客先常駐を基本としながら、スパン・オブ・コントロールが広いという特徴的な課題があります。しかし、他の組織も違う観点でのマネジメント課題は当然あると思います。たとえば営業組織であれば比較的若手のメンバーが多いほか、マネージャー層も経験の浅い人材がいます。バックオフィスでは異なる職種や専門性の人材をマネジメントする必要があるでしょう。このような、部門ごとの様々なマネジメント課題と向き合うべく、マネジメントAIの活用を社内で横展開していけるといいんじゃないかと考えています。
山際さん:私もまずはITエンジニアリング本部における、管轄メンバー1,600人に対して、現時点で隅々まで支援が行き届いているわけではないため、まずはここに着手していきたいです。対人間同士のコミュニケーションでは、先入観が入ったり、バイアスがかかりがちです。しかし、そこをフラットにAIコーチが本音を引き出しつつ、ウィークリーレポートとしてマネージャーに共有される。そして、組織の状況が可視化されることがすごく有用なので、今後の展開でまた違った世界が見えてくるだろうなと思っています。
大久保さん:「情報収集」をAIの力で拡張しながら、集まってくる情報に向き合って考える、そして判断しアクションするということにマネージャーの時間を使っていけるようになりたいですね。
山際さん:AIがいるからこそ、人間が拾えない情報も拾うことができると思います。そしてお互いが「知っている」状態になることによって信頼関係を築き、安心して働ける、所属していること自体に喜びを感じられるような組織になっていくと嬉しいです。
大久保さん、山際さん、貴重なお話をありがとうございました!




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