
【コーチ監修】コーチングスキルとは?管理職が身につけておきたい【基本スキル】を解説
株式会社mento コーチサクセス/HR 鈴木 麻理子
2021年よりmento登録コーチとして活動を開始。2022年にmentoへ入社し、コーチサクセスとして約200名の登録コーチのサクセス・サポートを担いつつ、企業のミドルマネジメント層をメインにコーチングを提供。有償セッション経験時間は850時間超。(一財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ資格保有
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「部下が自分で考えて動けるようになってほしい」「年齢・世代が離れているメンバーの接し方に戸惑いがある」「自分がやった方が早いと思ってしまい、任せられない」
そんな現場の悩みを抱える管理職の方に、今改めて必要とされているのが“コーチングスキル”です。
本記事では、コーチングスキルとは何かを丁寧に解説するとともに、傾聴・質問・フィードバックという3つの基本スキルを通じて、職場でどう活かせるのかを具体的に紹介していきます。
コーチングとは

コーチングとは、クライアント自らの理想や課題を言語化し、自律的な行動変容を促すための対話手法です。特に、相手の感情や価値観に深く向き合うことを重視し、課題や状況を解決するためのアドバイスとは異なります。
コーチは、相手の中にある答えや可能性を信じ、対話を通じてそれを引き出す存在です。問いかけや傾聴を通じて、相手自身の気づきや行動意欲を高めていきます。
VUCAの時代においては、トップダウン型の指示だけでは人材の力を最大化できません。だからこそ、管理職がコーチングを活用することで、部下の主体性や創造性を引き出し、組織全体のパフォーマンスを高めることが期待されています。
また、コーチングのプロセスでは、「オートクライン効果(発話によって自己の考えを整理する働き)」が生じやすく、自らの価値観や思考パターンに気づき、変化の糸口を見出せるのも特長です。
コーチングの基本原則
mentoのコーチングでは、「ヒトに向き合う姿勢」「対話による自己変革の支援」「ゼロポジションからの関わり」が核となります。
- ヒトに向き合う
課題や状況(コト)よりも、感情・価値観・信念(ヒト)に深く寄り添い、「なぜそう感じるのか」「その背景にある思いは何か」を丁寧に探ります。
- 対話による自己変革
相手が、自身の思考や行動のパターンを見つめ直し、望ましい行動を選び取れるよう“価値観のアップデート”をサポートします。
- コーチのスタンス
コーチは、ゼロポジション(フラットな立場)で関わり、恣意的な誘導をせず、クライアントの可能性を信じ、100%味方でいる姿勢を貫きます。
コーチングが単なる技法ではなく「関わり方そのもの」だとして、その土台を支えるのは、傾聴、質問、そしてフィードバックの3つの基本スキルです。
ここからは、それぞれのスキルがどのような意味を持ち、どのように現場で活かせるのかを、順を追って見ていきましょう。
1.傾聴スキル|対話の土台となる力
なぜコーチングは「聴くこと」から始まるのか
傾聴とは、相手の話に耳を傾けるだけでなく、感情や価値観に深く寄り添い、その背景を理解しようとする姿勢そのものを指します。コーチは、相手の話を深く聴き、感情や価値観まで理解しようとします。その姿勢こそ、信頼関係の構築や自己理解の促進につながります。
表面的な言葉だけでなく、沈黙や表情、声のトーンなど、非言語的なメッセージにも敏感になることで、相手の本当の思いや背景にある価値観に触れることができます。
傾聴がもたらす効果
- 自己理解の深化:話すことで自分の考えが整理される(オートクライン効果)。
- 信頼関係の構築:100%味方でいるという姿勢が相手に安心感を与える。
- 可能性の引き出し:助言や評価ではなく「聴く」ことで、本人の中にある答えが表面化しやすくなる。
傾聴の3つのレベル
- レベル1:内的傾聴
自分自身に意識が向いている状態。「次に何を言おう?」「自分はそう思わないな」など、自分に焦点が当たっている。
- レベル2:集中的傾聴
相手の言葉や意図に集中する段階。「何を伝えたいのか」「こういう意味かな?」と相手に焦点を当てる。
- レベル3:全方位的傾聴
相手の言葉・感情・空気感すべてに注意を向ける状態。「本心ではこう思っているのでは?」と、相手の奥にある感情や価値観まで感じ取る。
引用元:ジェニー・ロジャース著「決定版コーチング 良いコーチになるための実践テキスト」P.72傾聴3つのレベル/「コーチング・バイブル 人の潜在能力を引き出す協働的コミュニケーション」P.75傾聴 より
傾聴の実践ポイント
- 相手の表情や仕草、沈黙も含めて“全身で聴く”。
- 感情に焦点を当て、共感を持って寄り添う。
- 安易な励ましやアドバイスを控え、まずは受け止める。
- 相手の言葉を繰り返し、要約し、明確化することで気づきを促す。
2.質問スキル|気づきを引き出す問いの力
質問の目的
コーチングにおける質問は、情報を引き出すためではなく、相手自身が新たな気づきを得るためにあります。目的は、相手が自分自身で思考を深め、選択肢を広げ、自発的な行動に踏み出すことです。そのためには「思わず行動したくなる問いかけ」が求められます。
どう問いかけるか?(質問の種類)
- オープンクエスチョン(5W1H)
「何が一番達成したいことですか?」「どんな状態があなたらしいと感じますか?」など、答えの幅が広い質問。相手の考えや価値観を引き出すのに有効で、思考の広がりを生みやすいのが特徴です。
- クローズドクエスチョン
「はい」「いいえ」で答えられる質問。事実確認や選択肢の絞り込みに使いますが、広がりにくいので多用しすぎないよう注意が必要です。
思考をどう整理・拡張するか(質問の構造)

- チャンクアップ
話を要約したり、全体像を捉えたりする質問です。「それはつまり、どういうことですか?」など、抽象度を高めて本質に迫ります。
- チャンクダウン
話を具体化したり、詳細を掘り下げたりする質問です。例えば「具体的にはどんな行動ですか?」と質問し、話の理解を深めたり、次の行動に結びつけたりします。
質問の粒度を調整することで、相手の思考の整理や、内省を支援できます。
質問のフレーム:GROWモデル

GROWモデルは、目標達成に向けた思考と対話を整理するための、シンプルかつ強力なフレームワークです。コーチングの現場では、対話が漠然とした雑談で終わってしまうのを防ぎ、相手の内省を深めるための道しるべとして活用されています。
たとえば部下が「うまくいかなくて悩んでいる」と話し始めたとき、この4つのステップに沿って問いかけることで、話が自然と「前に進む方向」へと整理されていきます。
- G(Goal):本当に実現したいことは?
→ 最終的にどうなっていたら、自分らしいと感じられるのか
- R(Reality/Resource):現状はどうなっているか
→ いま妨げになっている要因や、使えそうなリソースは何か
- O(Options):どんな選択肢があるか?
→ アイデア出しのように視野を広げ、意外な選択肢も拾っていく
- W(Will):何を、いつ始めるのか?
→ 最終的に何から始めるかを明確にして、行動につなげる
このような構造化された質問フレームを活用することで、対話をより効果的に導くことができます。
良い質問のポイント
- 相手が自分でも気づいていない思考の領域に焦点を当てる。
- 「やってみよう」と思えるような、行動を促す問いかけを意識する。
- コーチの意図や価値観を押し付けず、相手の主体性を尊重する。
3.フィードバックスキル|行動を後押しする振り返りの力
フィードバックは“気づき”の入り口になる

コーチングにおけるフィードバックは、評価や指摘ではなく、相手の思考や行動に「新たな視点」を加えるためのものです。表面的な行動にとどまらず、その背後にある“思考パターン”や“行動の動機”に丁寧に目を向けることで、より深い自己認識と行動変容を促すことができます。
たとえば、次のような“階層的な視点”をもとに相手を捉えていくと、フィードバックの質は大きく変わります。
- 1F:経験・知識・スキル
目に見えるスキルや知識、業務経験など。「自分は何ができるか」、「どう物事に取り組むか」といった“表面的なスキル”にあたります。たとえば、業務遂行力やツール操作、専門知識などがここに含まれます。
- 2F:コンピテンシー(具体的な行動や過去のファクト)
実際にどのような行動をとったかという“具体的な行動の中身”。たとえば、「どのような課題にどんな方法で取り組んだか」、「どのような関係構築をしてきたか」といった過去の実績や行動内容にあたります。
- 3F:ポテンシャル(行動パターンや思考のクセ)
行動の背後にある思考のクセや反応の傾向。自分がどういう状況に向いているのか・いないのかを見極めるための“行動原理”の層であり、無意識に繰り返している行動パターンが見えてくる領域です。
- 4F:ソース・オブ・エナジー(価値観や行動の動機、エネルギーの源)
自分の行動の“根っこ”にある価値観や動機。強烈な成功体験やトラウマが影響していることもあります。たとえば「人に喜ばれると嬉しい」「失敗したくない」という想いが、行動の源になっているケースもここに含まれます。
このような視点を意識することで、フィードバックは単なる“振り返り”ではなく、相手自身が自分を見つめ直す深い対話の入口となるのです。
効果的なフィードバックのポイント
- 観察をベースに伝える
事実をもとに「こう感じた」と伝えます。相手を評価したり、フィードバックへの同意を強要すると、相手の発話や思考が制限されてしまいます。
- 構造的な視点を提供する
表面的な行動だけでなく、その背後にある価値観や信念に言及します。相手が気づいていない思考パターンや固定観念を一緒に探っていきます。
- 深層動機に迫る
本人の“エネルギーの源”となっている価値観に触れる問いかけをします。「なぜそうしたのか」「本当はどうありたいのか」など、深層にある動機に向き合います。
ストロークという考え方
ストロークとは、アメリカの心理学者E・バーンが創始した「交流分析」で使用される概念で「自分、および他人の存在を認める全ての働きかけ」と定義されています。心の栄養とも言われ、肯定的なストローク(微笑み、うなずき、信頼の言葉など)は、相手のモチベーションや自尊心を高めます。
与えたストロークは相手から返ってくるとも言われ、信頼関係の基盤づくりに欠かせません。また、ストロークの内容や質・量は受け取る相手が決めるため、相手の個性や状況に応じて適切に与えることが大切です。
管理職がコーチングを実践するとどうなるか
コーチングスキルを備えた管理職は、対話を通じて部下の主体性や関係性の質を高め、組織にポジティブな変化をもたらします。
たとえば以下のような変化が、日常のコミュニケーションの中に現れてきます。
- 本音の対話が増える
心理的安全性が高まり、率直な言葉が交わされるようになる
- 主体的な行動が促される
課題に対する“自分なりの意味づけ”が行動に繋がる
- マネジメントの負荷が分散される
状況把握や適切な介入がスムーズになり、支援が届きやすくなる
さらに、課題そのものではなく「相手がその課題とどう向き合っているか」に焦点を当てることで、部下自身が自発的に動き出すきっかけが生まれます。
ビジネスコーチングについてくわしく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
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最初の一歩は「問いかけ」を持つことから
完璧な質問を目指す必要はありません。まずは、日々のコミュニケーションの中で使える自分なりの“問いかけのメモ”を手元に置き、少しずつ試してみることが変化の第一歩です。
- 相手に好奇心を向ける
「人生の目的は何ですか?」
「今、何を感じていますか?」
- 理想状態を想像する
「本当はどうありたいですか?」
「それを達成すると、どうなりますか?」
- 核心をつく
「あなたにとって一番大事なことはなんですか?」
「今あなたを最も心配させているのはなんですか?」
- 仮定する
「もし、何の制約もなかったとしたら、何をしますか?」
- 方向性を確かめる
「話したいことを、話せていますか?」
こうした問いは、部下の思考を深め、対話を意味のある時間へと変えていきます。
まとめ
コーチングスキルは、単なる“話し方”や“問いのテクニック”ではありません。
- 傾聴:相手の感情や価値観に深く寄り添う
- 質問:行動を促す気づきを引き出す
- フィードバック:相手の可能性を広げる視点を提供する
一見シンプルに見えるスキルのひとつひとつが、対話の中で思考を揺さぶり、行動を変える力を持っています。
目の前の相手の「まだ言葉になっていない想い」に耳を傾け、その人自身の可能性を信じて問い、そっと背中を押す。その積み重ねが、自律性のある人材を育み、チームを前進させていく原動力になります。
変化のスピードが増す今、正解を持っていること以上に、対話を通じて“自ら答えを見つけていく力”が求められています。コーチングスキルは、まさにその対話を導くための、現代のマネジメントに欠かせない力なのです。