
マネジメント課題を解決するビジネスコーチング事例8選
mento編集部
法人向けビジネスコーチングの提供を通じて、企業の人事課題解決を支援する専門チーム。「この国の総労働熱量をあげる」を理念に掲げ、実践知に基づいた情報発信を行っています。人材育成と組織力強化に関する豊富な知見をもとに、経営・人事領域に役立つコラムをお届けします。
INDEX
プレイヤーとして優秀だった人材が、マネージャーという新たな役割に就いた途端、思うようにチームを動かせず、戸惑いや孤独を感じてしまう。こうした声を、現場から繰り返し耳にしてきました。
求められる成果とチームの成長。その両立に悩みながらも、相談できる場がなく、一人で抱え込んでしまう。その結果、組織全体の成長にブレーキがかかってしまうというケースは決して少なくありません。
では、マネジメントの質をどのように高めていけばいいのか。その一つの答えとして、いま注目されているのが「ビジネスコーチング」です。
本記事では、管理職の育成やマネジメント層の課題改善に取り組む人事担当者に向けて、ビジネスコーチングの活用によって現場がどう変わったのかを、具体的な企業事例とともにご紹介します。
マネジメントにおける典型的な課題と原因

株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査*によると、多くの企業でマネージャーがプレイヤー業務を抱えており、部下の育成やチームマネジメントに十分な時間を割けていない実態が明らかになりました。
プレイヤー業務比率が50%を超えるマネージャーが半数を占めるという結果もあり、多くの管理職が「育てたくても時間がない」「任せたくても不安」というジレンマを抱えている現状がうかがえます。
このような背景から、対話力・関係性構築力・育成力といったマネジメントスキルの底上げは、企業全体の成長を支える基盤として重要性を増しています。
*出典:「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」(2023年)
ビジネスコーチングがマネジメントに効果的な理由
ビジネスコーチングは、現場での“思考と行動”を変え、マネジメントの質を底上げする実践的な支援手法です。
現代のマネジメント課題は複雑化しており、知識のインプットや管理手法の習得だけでは対応が難しいケースが増えています。
ビジネスコーチングがもたらす“対話から行動”の変化

ビジネスコーチングは、マネージャー個人が自らの課題に気づき、対話を通じて答えを導き出すアプローチです。トップダウンでの「正解の提示」ではなく、内省と自律性を促す継続的な支援によって、現場での行動変容を引き出します。
例えば、以下のような変化が現場で生まれています。
- プレイヤー業務の合間でも、考える時間を“意図的に確保”できるようになった
- メンバーとの対話が“伝える”から“引き出す”スタイルに変化した
- マネジメントに「正解」がないからこそ、“問い直しの習慣”が根づいた
また、このようなマネジメント支援のあり方は、アメリカをはじめとする海外の企業で広く取り入れられており、近年では日本国内でも、その有効性に注目が集まるようになってきました。
業績だけでなく、部下のエンゲージメントや組織風土づくりにも寄与することから、現代のマネジメント支援として欠かせない手段になりつつあります。
事例紹介①【継続支援で現場が変わる】管理職100人への長期伴走で、チーム力が底上げ<パナソニック インダストリー株式会社>

導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 新しい人事制度の導入に伴い、管理職のリーダーシップ強化が急務に
- 従来の集合研修では実務に結びつきにくく、「現場での実践を支援できる施策」が必要という課題感から、コーチング導入を決定
ビジネスコーチングプログラムの設計
- 約100名の管理職を対象に、1年間にわたる中長期的な支援プログラムを構築。新制度の導入に伴い求められた「行動変容」を実現するため、短期の研修では得にくい“実践での変化”に着目した設計
- 1on1形式のコーチングを通じて、日々のマネジメントのなかで起きる葛藤や迷いに寄り添いながら、本人の内省を促進。気づき→行動→振り返り→定着というプロセスを回し、マネジメントスタイルの再構築を支援
- 従来の研修ではアプローチしきれなかった「現場でのリアルな判断や関係構築」の改善に重点を置くことで、制度浸透だけでなく、管理職本人の納得感ある変化を引き出す
導入後の具体的な成果
- 管理職自身が行動変容を実感し、周囲への影響力も変化
- 部下との関係性が改善され、エンゲージメントスコアが向上
- プログラム継続率・満足度ともに高く、他部門へ展開も拡大中
事例紹介②【“育てる”マネジメントへ】対話を通じて、風土ごと変えるリーダーシップ再構築<株式会社デンソー>

導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 組織全体において現場での対話不足や、コミュニケーションの質の低下が課題に
- リーダー層のマネジメントスタイルを見直す必要があり、現場起点での変化を促す支援策としてコーチングを選定
- トップダウンの研修や制度ではなく、個人に寄り添う“伴走型”の支援が求められていた
ビジネスコーチングプログラムの設計
- 組織全体での対話不足を受け、マネージャーのコミュニケーションスタイルを根本から見直すことを目的にプログラムを構築。各マネージャーの現場課題や関係構築上の悩みに即した柔軟な支援設計を行った
- 1on1形式のコーチングを継続的に実施し、表層的な手法論ではなく「自分がどうありたいか」「どうチームに関わるか」といったスタンスの部分を深掘り。マネジメントの土台となる思考と感情の整理にフォーカスした
- 業務内で起きる“リアルな瞬間”に寄り添うことで、リーダーシップの再定義と風土改善の起点づくりを図った
導入後の具体的な成果
- コーチングを通じて「人を育てることの本質」を捉え直すきっかけとなった
- マネジメントの質に変化が表れ、部下との関係性改善や心理的安全性の向上を実感
- マネージャー自身の意識変容が、部門全体の風土改革へと波及
事例紹介③【自律型組織への転換】“対話”が生み出す、現場主導の変化<日本たばこ産業株式会社(JT)>

導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 経営環境の変化を受け、現場主導で自律的に動ける組織づくりが急務となっていた
- 従来のトップダウン型マネジメントでは、現場の多様な課題や変化に十分対応できないという課題感があった
- 「現場の気づきや主体性を引き出す」ことを目的に、1on1を中心としたビジネスコーチングの導入を決定
ビジネスコーチングプログラムの設計
- 部門ごとに異なるマネジメント課題へ対応するため、複数職種・複数部署のマネージャーが同時期に参加する形式を採用。組織内に多様な視点を持ち込む設計とした
- プログラムは1on1を中心とし、対話を通じて「現場で求められているマネジメントのあり方」や「自分らしいリーダー像」の言語化をサポート。自身の役割と期待を再認識する内省を重視
- 人事から理想像を要求するのではなく、自らの棚卸しから機会を作ることで、管理職自身に変化の成功体験を感じてもらうことに重点を置いた
導入後の具体的な成果
- マネージャー自身の「現場を動かす意識」や「自律的な行動」が明確に変化
- 部下との対話の質が向上し、現場から主体的な提案や改善行動が増加
- コーチングで得た気づきや実践知が、組織内に波及し始めている
事例紹介④【マネージャー登用の壁を越える】“自己理解”がキャリアの覚悟を生む<パーソルクロステクノロジー株式会社>

導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 急成長によるエンジニア組織の拡大に伴い、マネージャー登用が追いつかず、1人のマネージャーが多くの部下を抱える状況が発生
- 現場志向の強いエンジニアが多く、管理職キャリアへの意欲醸成や自己理解の促進が課題となっていた
- 社内1on1の文化はあったものの、リソース不足により継続が難しい状況に。代替かつ強化策として、外部プロコーチによる1on1コーチングを導入した
ビジネスコーチングプログラムの設計
- 組織拡大に伴い将来的にマネジメントが求められる人材を選抜し、候補者の希望も踏まえて複数名がプログラムに参加。マネージャー登用前から内省の機会を設ける構成とした
- 各参加者は「自分が選んだコーチ」と1on1セッションを継続的に実施。固定プランではなく、コーチングを受け放題とすることで、内省のタイミングや頻度を自律的に設計できる仕組みを採用
- キャリアや価値観の深掘りを主軸とし、「なぜ自分はマネジメントを選ぶのか」「自分がリーダーとして大切にしたいことは何か」といった問いへの言語化を促進。マネージャー登用後の早期立ち上がりと、自走を可能にする土台づくりを重視した
導入後の具体的な成果
- コーチング受講者10名全員がマネージャー登用を実現
- 「将来のキャリアイメージ」「大切にしたい価値観」などの自己認識が明確化し、登用後も迷いなく行動できるようになった
- 部下や周囲との関係性にも変化が生まれ、マネージャーとしての自信や覚悟が醸成
- コーチング体験が次世代マネージャー候補の早期育成にも波及
事例紹介⑤【行動が変われば文化が変わる】“気づき”を起点に、マネジメントの再設計が始まる<株式会社電通コーポレートワン>

導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 組織変革を進める中で、リーダー層のマネジメント力がボトルネックになっていた
- 「育成や組織づくりに注力したいが、日々の業務に追われ実行に移せない」という状態が継続していた
- 内省と対話を軸に“個人の意識と行動”を変えるアプローチとして、ビジネスコーチングの導入を決定
ビジネスコーチングプログラムの設計
- 職種や部門を問わず、複数のマネージャー層を対象に横断的にプログラムを設計。組織の変革期においてリーダー層が果たすべき役割を再定義する狙いがあった
- 1on1形式の継続的な対話を軸に、一人ひとりのマネジメントスタイルやチームとの関係性を棚卸しし、「理想のマネジメント像」とのギャップを明確化。内省と行動のサイクルを促すプロセスを丁寧に設計
- コーチングを通じて得られた“実践知”を他部門との共有や組織内での言語化に活用し、変化の輪が組織全体に広がるよう意図された仕組みとなっている
導入後の具体的な成果(離職率低下、マネージャー評価向上など)
- 自らの意思で「チームのために行動を変える」意識が浸透し始めた
- 対話を通じたマネジメントに手応えを感じる声が増加
- プログラムを通じて形成された実践知が組織内に徐々に波及し始めている
事例紹介⑥【カルチャー共感が成果を生む】マネジメント改善が採用・定着率にも好影響<mederi株式会社>
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導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 急成長に伴い、メンバーの属性・価値観が多様化。従来型のマネジメントが通用しない局面が増加
- 「対話の質が組織全体の成長に直結する」との考えから、従来のマネジメント方法を再設計する必要性を痛感した
- 形式的な評価制度や集合研修ではカバーしきれない領域に対応するため、マンツーマンで深く支援できるビジネスコーチングを導入
ビジネスコーチングプログラムの設計
- 急成長により多様化した組織課題に対応するため、複数のマネージャーを対象に継続的な1on1コーチングを実施。職種や階層を問わず、日々のマネジメントに直結する支援を目的とした
- コーチングでは、マネージャー個々の課題をベースに「対話の質」を徹底的に磨くことに注力。メンバーとの信頼構築や、関係性の再定義を支える問いかけ・内省・実践の反復サイクルを重視した設計
- 特定の研修や制度と連動した枠組みではなく、実務の中で直面するリアルな悩みに対応する“現場支援型”のコーチングとして運用されている。コーチングで得た変化が、マネジメントの文化や採用カルチャーにも波及している点が特徴
導入後の具体的な成果(離職率低下、マネージャー評価向上など)
- 1on1の質が明らかに変化し、メンバーとの信頼関係が深まった
- 「話を聞いてもらえた」という実感が、チーム内に安心感と前向きな雰囲気を醸成
- 離職率が大幅に低下し、カルチャーへの共感度も向上
- 事業面でも急成長を遂げており、「Technology Fast 50 2024 Japan」成長率1位(PR TIMES)など、外部からの高い評価も得ている
事例紹介⑦【自分らしい軸の言語化】若手マネージャーがリーダーとしてのあり方を確立<伊藤忠商事株式会社>

導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 管理職に昇進したばかりの層を対象に、「マネージャーとしてのあり方」や「自分らしいリーダーシップスタイル」を定義・確立する必要性を感じていた
- 既存の研修制度では補いきれない個別課題への支援手段として、ビジネスコーチングの導入を決定
- 一人ひとりが意思決定に自信を持ち、自律的に組織を牽引できる状態を目指した
ビジネスコーチングプログラムの設計
- キャリア初期にマネージャーへ昇進した若手層を中心に、1on1形式のコーチングを継続的に実施。管理職としてのあり方や意思決定に対する不安・迷いを、自分自身の言葉で整理・言語化することを目的とした
- コーチングセッションでは、上司・部下との関係構築や役割の再認識といった日常的なマネジメント課題に寄り添いながら、マネジメントの「軸」を定めていくプロセスを重視。表面的な行動指導ではなく、深い内省を通じた意識変容を促す設計
- 社内研修制度とは明確に切り分けた運用をしており、個別課題への対応に特化した支援として導入。コーチングを受けたマネージャーが自身の行動に自信を持ち、次世代育成に意識を向けるようになるなど、変化の波及が生まれている
導入後の具体的な成果(離職率低下、マネージャー評価向上など)
- 自分自身のマネジメントスタイルを内省・言語化できるようになった
- 意思決定の場面での自信がつき、行動に迷いがなくなったという声が複数あがった
- コーチングの体験が、次世代育成への意識変化にもつながり、「部下にどのように接するか」への自覚が深まった
事例紹介⑧【納得感と自信を育てる】等身大の悩みに寄り添う支援が、内発的な学びを生んだ<株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社>

導入背景とビジネスコーチングの選定理由
- 急速な事業成長のなかで、マネージャー層の育成が追いついていないことが大きな課題に
- 管理職としてのスタンスや判断軸に迷いを抱えるケースが増加していた
- 社内ではフォローしきれない部分を補うため、等身大の悩みに寄り添う外部のプロ支援としてビジネスコーチングを導入
ビジネスコーチングプログラムの設計
- マネージャーの経験や組織内の立場に応じて、完全個別設計のコーチングを実施。特に「管理職としてどうあるべきか」といった曖昧な不安や、判断に迷う場面での内省支援に重点を置いた
- 対話の中では、「ありたい姿」と「現状の行動」のギャップを言語化し、現場でのアクションにどうつなげていくかを自ら導き出すよう支援。トップダウン型の指導ではなく、自発的な気づきを促すスタイルを徹底した
- 組織的な評価制度や研修プログラムとは連動せず、日常業務の中に自然に組み込めるように設計。等身大の悩みに寄り添うことで、マネージャー自身の納得感と成長意欲を高めることを狙った
導入後の具体的な成果(離職率低下、マネージャー評価向上など)
- 現場での対話の量・質が改善し、部下との信頼関係が深まった
- マネジメントに対する「納得感」「自信」が生まれ、行動意欲が高まった
- プログラム修了後も主体的に学び続ける土壌が醸成されつつある
まとめ:事例から見るマネジメント改善のポイントと、ビジネスコーチングの可能性
複数の企業事例を見てきたように、マネジメントの課題は企業ごとに異なるものの、共通していたのは「管理職一人ひとりが葛藤や悩みを抱えながら、組織の成果とメンバーの成長を両立させようとしていた」という点です。
ビジネスコーチングは、そうした現場の“挑戦”に寄り添い、対話を通じて行動を変えていく支援です。私たちは、従来の画一的な研修では届かなかった個別の悩みにアプローチし、「自分らしいマネジメント」の形を見出す手助けをしてきました。
そして、多くの企業がこの取り組みを一過性の施策ではなく、「育成文化をつくる」ための長期的な仕組みへと育て始めています。個人の行動変容が、チームに波及し、やがて組織の風土を変えていく。それは、数値で測ることのできない変化かもしれませんが、確実に未来をつくる一歩です。
管理職が、ひとりで抱え込まなくてもいい組織を増やすこと。
対話から始まる小さな変化を、育成の当たり前にしていくこと。
私たちは、これからもコーチングという手段を通じて、その挑戦に本気で向き合っていきます。