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『行動経済学が最強の学問である』著者監修! 組織のバイアスを乗り越える。行動経済学から学ぶマネジメントのヒント|ウェビナーレポート
『行動経済学が最強の学問である』著者監修! 組織のバイアスを乗り越える。行動経済学から学ぶマネジメントのヒント|ウェビナーレポート

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2026年3月19日、Behavioral Science Group所属 行動経済学コンサルタントの山本将太さんをお招きし、19万部を超えるベストセラーとなった『行動経済学が最強の学問である』著者・相良奈美香さん監修のもと、「組織のバイアスを乗り越えるマネジメントのヒント」というテーマでウェビナーを開催しました。

本記事では、そのウェビナー内容を要約してお届けします。

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皆さん、こんな経験はないでしょうか? プライベートで夜中にあまりよく考えずにECサイトでポチっと購入してしまったり。仕事でも、綿密にリサーチをしたうえで行ったマーケティング施策がなぜかうまくいかなかったり……。

こういった、日常に潜む“あるある”な非合理な行動を科学する学問が行動経済学なんです。

行動経済学は「人は非合理的である」と捉える

行動経済学には「経済学」とついていますが、前提として従来の伝統的な経済学と行動経済学がどう違うのかを少しお伝えしたいと思います。

伝統的な経済学は、「人は常に合理的である」という前提から理論が進められています。つまり、無限のリソースを利用して、できる限りの情報を収集し、その情報に基づいた最良の決断をするという前提があります。

一方で、行動経済学は「人は非合理的である」と捉える学問です。人はリソースや意思の力に制限があるため、「ヒューリスティック」(直感)に基づいて意思決定をしています。そのため、非合理的な心理的な側面も考慮した「経済学と心理学の融合」などのように説明されることが多いです。

まとめると、伝統的な経済学は「合理的な人間を解明する学問である」のに対し、行動経済学は「非合理になり得る、実際の人間の意思決定を解明する学問である」といえます。

人の「⾏動」の一歩前に「意思決定」がある

これまで「行動」や「意思決定」という言葉が出てきましたが、この「意思決定」が非常に重要なので、詳しく説明します。

行動は何かしらの意思決定のあとに生まれます。なので行動の一歩前の意思決定を理解することによって、行動の「なぜ」が理解できます

その意思決定に影響を与えたり、歪めたりする原理やバイアスが何百もあると言われています。

ただ、たくさんありすぎて覚えられない、なかなか活かしづらい、本質が掴めないといった方が多いです。

そんな状況をどうにかしようと、弊社代表の相良が著書『行動経済学が最強の学問である』において主要な約60個の原理・バイアスを「認知のクセ」「状況」「感情」という3つの要因で整理し、体系化しました。

今日は、それぞれの要因について、実際の組織における「あるあるマネジメント課題」について触れながら解説をしていきます。

意思決定に影響を与える「認知のクセ」

まずは「認知のクセ」から解説します。

1日3.5万回の意思決定を使い分ける「直感のシステム1」と「熟考のシステム2」

認知のクセを理解するために非常に重要な概念が「システム1」と「システム2」です。システム1は直感的な思考のことで、システム2は熟考的な思考のことを指します。

たとえば「1×1は?」と言われても、パッと「1」と答えられますよね。あと、急いでいるとき、ランチで何を食べるか決めるときも「いつもの唐揚げ定食でいいや」といった具合に、パッと思いつく思考が「システム1」です。つまり、速い思考で自動的、無意識といった特徴があります。効率性はあるけれど、コントロールしにくく、それゆえに非合理なエラーを起こしやすいのが特徴です。

一方で、たとえば「1724×29は?」と言われても、答えがすぐ出る方はなかなかいらっしゃらないと思います。あと、初めて路上で運転した時のことを思い出してみてください。レバーをドライブに入れて、アクセルのペダルを踏んで、右折する時には歩行者がいないか確認して、対向車が来るかどうか見て、ハンドルを回して……、と一つひとつの作業をちゃんと考えて確認しながら行動しますよね。このじっくりとした遅い思考回路が「システム2」です注意力や努力、脳のエネルギーが必要だけど、コントロールしやすい特徴があります。

人間は、日常生活でシステム1もシステム2も両方使っています。人間は1日に3万5,000回もの意思決定をしていると言われており、そのほとんどがシステム1による意思決定なんです。

業務分担の「現状維持バイアス」対策:機会コストに目を向ける

認知のクセの代表例に「現状維持バイアス」があります。

たとえば「部下に任せた方がいいとわかってるのに、結局自分でやってしまう」という場面。でもこれだと、上司の業務負担が増してしまいますし、部下が育たず組織が属人化してしまいやすいです。

では、具体的にどういう対策をすればいいのか? 「機会コスト」に目を向けてみるのがポイントです。機会コストとは、ある選択を行う(今回の場合は「結局自分でやってしまう」)ことによって失ったものの価値のことです。

会議での「確証バイアス」対策:上司は最後に意見を言う

「会議で上司の意見に引っ張られてしまって、部下からなかなか建設的な意見が出ない」というケースについても考えてみましょう。雰囲気が悪いわけでもないし、部下としても何も考えてないわけではない。けれども、いざ会議になると全然意見が活発化しない、というシーンはあるあるだと思います。

ここには「確証バイアス」が潜んでいます。確証バイアスとは、自分の考えや仮説を支持する情報ばかりを集めてしまって、反対する考えや情報を軽視したり無視したりしてしまう傾向のことです。

これに対してどう対策すべきか? 大きく分けて2つあります。ひとつ目は「上司は意見を最後に言う」ということ。二つ目は「あえて反対の選択肢を深掘りする」ということ。

あらかじめ打ち合わせや会議の場では、上司やリーダーは「私が先に意見言ってしまうと皆さんの意見にバイアスをかけてしまうかもしれないので、まずはあなたの考えを聞かせてください」とあらかじめ伝えておく。そうすることで、中立で率直な意見を引き出せるようになります。

続いて「あえて反対の選択肢を深掘りする」について。上司やリーダーが自分としてはすでにA案がいいと思っていたとしても、あえて反対のB案を採用するとしたらどういうメリット・デメリットがあるんだろうかとあえて深掘りします

意思決定に影響を与える「状況」

続いて二つ目の要因「状況」についてですが、どのような状況か、実験を用いて説明します。

被験者に5ドルを渡して電池を買ってきてもらいます。「お釣りは被験者のものになる」という設定です。買ってくる電池が安ければ安いほどたくさんお釣りがもらえて自分の懐に入る仕組みです。そのなかで一番高い電池を購入したのは、次のどのグループだと思いますか?

  • グループ1:電池を買う時に周りに誰もいなかった場合
  • グループ2:周りに他のお客さんが1人いる場合
  • グループ3:周りに他のお客さんが3人いる場合

結果は、グループ3が一番高い電池を購入した割合が63%と一番高かったんですね。

これは「単純存在効果」というもので、他人が自分のそばにいるだけで人の行動や意思決定に影響を与える現象のことです。誰もいなければ安い電池を買ってお釣りを手にしようとするけれど、人がいると「一番安っぽい電池を買うのはなんだかな」と人の目が気になり見栄を張って高い電池を購入した割合が高くなったんです。

やらされ感への対策:自分で選んでもらう(自律性バイアス)

状況による非合理な意思決定を組織マネジメントに当てはめて考えてみると、「部下やメンバーが主体的に動いてくれない」ケースが挙げられます。良かれと思って細かく指示するとむしろやる気が下がってしまう、言えば言うほど逆効果になって、結局指示待ちになってしまう。

ここで質問ですが、次の二つの質問のうち、どちらの方が手伝ってくれそうでしょうか?

  1. 「忙しいのでこのプロジェクトを手伝ってください」
  2. 「手伝ってほしいのだけれど、書類の手直しとデスクリサーチ、どちらかお願いしてもいいですか?」

おそらく多くの方が2つ目の頼み方を選んだのではないでしょうか。これは「自律性バイアス」というものが関係していて、自分で選んだ、自分で決めたと感じられる選択をより高く評価しやすいという傾向のことです。

1つ目の頼み方は、言われた側は選択の余地がなくて「やらされてる」っていう感覚が生まれやすいのですが、2つ目の頼み方では手伝うこと自体は前提としつつ、何を手伝うかという選択肢をあえて相手に選んでもらっています。そうすると依頼された相手は、「命令されたわけではなく、自分で選んだ」という風に感じやすくなって、前向きに行動しやすくなるわけです。

意思決定に影響を与える「感情」

では最後に「感情」の要因についてお伝えさせていただきます。

感情を分解すると実は2種類あります。

1つ目が「エモーション」と呼ばれる感情で、強くはっきりした、いわゆる喜怒哀楽のような感情のことを指します。2つ目が「アフェクト(感情)」という淡く無意識な感情で、ポジティブとネガティブの両側面があります。

では、このエモーションとアフェクト、どちらの方が意思決定への影響の頻度が高いと思いますか?

これはアフェクトの方が頻度が高いんですね。喜怒哀楽のような強い感情だけではなくて、自分すらも気づかないような淡い感情こそが、1日の意思決定に大きな影響を与えているんです。なぜかというと、全てを熟考していたら対応できないからです。

ポジティブな感情が個人のリソースを形成する

アフェクトが、ビジネスや組織マネジメントというのに大きく影響を及ぼすものとして今回解説していますが、その補足として「拡張-形成理論」を紹介します。ポジティブな感情が人間の認知や行動の幅を広げ、その結果として個人のリソースが形成されるという理論です。

アフェクトは淡くて無意識で微かな感情なので、多くの人は無意識です。しかし、今この話を聞いていただいた皆さんは、今後気づくことができるようになったはずです。

特に、ポジティブ・アフェクトの重要性は、上司やリーダー、組織のトップはもちろん、チームのメンバー全員が理解していて、かつ意識できるとより効果的です。なぜなら、アフェクトは伝染するからです。一人ひとりが、自ら働きやすく働きがいのある生産性の高い職場を自分から作ろうとはたらきかけると必ず周りも影響を受けます。アフェクトが伝染するのは、何も上司から部下だけではなくて、部下から上司、同僚から同僚という矢印での伝染も、もちろんありますので、一人ひとりが心がけることでポジティブな職場を作り出していけるはずです。

今回、人の非合理な行動を促す3つの要因をそれぞれ解説してきましたが、最後に少しだけお知らせです。本日ご紹介したような理論やバイアス、考え方も含めて、行動経済学をさらに深く学び、そして現場で実践できるようになりたいとお思いになった方は、ぜひ弊社代表・相良の公式サイトsagaranamika.jp をご覧いただければ幸いです。ご清聴、ありがとうございました。

今回のおさらい

  • 行動経済学は人の非合理な意思決定を扱う
  • 人の「⾏動」の一歩前に「意思決定」がある
  • 「認知のクセ」「状況」「感情」が意思決定に影響する
  • 人間は1日に3.5万回意思決定する
  • 効率的な意思決定のために「直感のシステム1」と「熟考のシステム2」を使い分けている
  • 「部下に任せた方がいいとわかってるのに、結局自分でやってしまう」ときは、失った「機会コスト」に目を向ける(現状維持バイアス)
  • 「会議で上司の意見に引っ張られてしまって、部下からなかなか建設的な意見が出ない」ときは、上司は最後に意見を言う(確証バイアス)
  • 「部下やメンバーが主体的に動いてくれない」ときは、選択肢を提示し自分で選んでもらうことで、やらされ感をなくす(自律性バイアス)
  • 感情には、強い感情の「エモーション」と淡い感情の「アフェクト」とがある
  • このうちアフェクトの方が意思決定に影響を与える頻度が高い
  • ポジティブな感情が人間の認知や行動の幅を広げ、その結果として個人のリソースが形成される(拡張-形成理論)
  • ポジティブ・アフェクトの重要性は、上司だけでなくチームメンバー全員が理解するとより効果的

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