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ウェルビーイングから問い直すマネジメント支援 ~中間管理職から、中心管理職へ~|ウェビナーレポート
ウェルビーイングから問い直すマネジメント支援 ~中間管理職から、中心管理職へ~|ウェビナーレポート

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2026年4月8日、ウェルビーイング研究の第一人者である予防医学研究者、公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事の石川 善樹さんをお招きし、「ウェルビーイングから問い直すマネジメント支援 ~中間管理職から、中心管理職へ~」というテーマでウェビナーを開催しました。(司会:株式会社mento 横山真介)

本記事では、そのウェビナー内容をお届けします。

石川さん:本日は「ウェルビーイングから問い直すマネジメント支援」というタイトルでお話しします。副題は「中間管理職から中心管理職へ」です。この意味合いについては、後ほど詳しく解説します。

まず最初に、ウェルビーイングを取り巻く基礎的な背景からお話しします。コロナ禍のころからウェルビーイングという潮流が、企業においても広がるようになりました。

ウェルビーイングについて、広くはお客様、バリューチェーン上の関係者たち、地域の人たちなど、企業活動におけるウェルビーイングの対象範囲はどんどん拡張していますが、本日のウェビナーでは「従業員」「管理職」という範囲に絞ってお話しします。

ウェルビーイングの潮流とその背景

【背景1】従業員の「主観」を大事にするようになった

ウェルビーイングの潮流は、2020年以降に訪れました。その背景には、従業員の主観を大事にする方向へと経営が変化してきたことがあります。

ざっくり振り返ると、「従業員満足度」という概念から始まりました。従業員満足度は離職率との関連が強いことから、経営にとっても無視できない指標として認識されてきました。

一方で、従業員満足度は生産性との関連が薄いということから、やがて従業員満足度からエンゲージメントへと軸足が移っていきました。エンゲージメントとは、日本語で言えば「夢中」というような意味合いで、仕事や会社に夢中であれば当然生産性も高い、ということです。ただ、この従業員満足度もエンゲージメントも、よくよく考えてみると、あくまでも会社が主体の視点です。

これらは引き続き大切な視点ではあるのですが、もう少し従業員本人の視点に立ってみようという動きが出てきています。1社に勤め上げるという時代ではなくなってきた昨今、たとえば本人のキャリア・ウェルビーイングは、もはや1社だけで完結することが難しくなっています。あるいは資産形成のようなフィナンシャル・ウェルビーイングも同様です。

そうしたなかで、キャリア・ウェルビーイングやフィナンシャル・ウェルビーイングをはじめとする様々なウェルビーイングを、会社視点ではなく本人の視点で捉えていこうという動きが今まさに起きているんです。

はたらくウェルビーイングの三層構造

では、昨今「はたらくウェルビーイング」が、どういう構造をしているのか? シンプルに整理すると、「前提・要因・結果」という三層になります。

「結果」として何が良い状態かというと、はたらくことが喜びであり楽しみであり、かつ社会に対しても役立っているという感覚がある状態です。

では、その「はたらくウェルビーイング」に至るためにどういう「要因」が重要なのか? それが「選択肢と自己決定」です。仕事をするうえで様々な選択肢があるなかで、自分で決めているという感覚があるかどうか。この選択肢と自己決定があると、「はたらくウェルビーイング」になりやすくなります。

そして、その選択肢と自己決定をするためには、「前提」として本人の価値観や人生観がはっきりしていることが必要です。価値観や人生観がはっきりしていないと、どの選択肢が自分にとって魅力的なのかもわかりづらいし、自己決定もしづらくなります。

つまり、「はたらくウェルビーイング」が従業員満足度やエンゲージメントに加えて重要になってきた昨今においては、一人ひとりの選択肢と自己決定を意識し、その背景にある価値観や人生観まで視野に入れながらサポートしていく時代になってきているということです。

「はたらくウェルビーイング」をつくるための、マネジメントの役割

では、「はたらくウェルビーイング」をつくるため、マネジメントにおいて何が求められるか?

答えを出すというよりも、チームメンバー一人ひとりのウェルビーイングを「問う機会」を作ることが、重要な役割だと考えます。

エンゲージメントや従業員満足度については、会社の指針を丁寧に説明し徹底するというのがマネジメントの役割かもしれません。しかしウェルビーイングに関しては、主体はあくまでメンバー本人です。だからこそ、こうした問いかけの機会を作ることが重要になっています。

【背景2】 企業価値を「予測」するとわかった

ウェルビーイングの潮流が来ている別の背景として、従業員満足度やエンゲージメントにとどまらず、ウェルビーイングが企業価値や財務パフォーマンスを予測するとわかってきたことが挙げられます。

ここで非常に重要なのは、従業員のウェルビーイングが良くなるから財務業績が良くなるという因果関係が明確であることです。そして、その逆の、財務業績が良くなるから従業員のウェルビーイングが良くなるわけではないということもわかっています。あくまでも原因としては、従業員のウェルビーイングが先に立っています。

実際に日本のデータを見ても、従業員のウェルビーイングが高い会社・事業所は、その後3年間の売上高成長率も高いということが、商工中金のデータなどでも示されています。

国内はもとより海外においても、従業員のウェルビーイングの高さが、財務パフォーマンスや、上場企業であれば株式市場におけるパフォーマンスを「相関する」というよりも「予測する」ということが、広く知られるようになってきました。

ウェルビーイングが財務業績につながる構造

そのメカニズムとしては、生産性の向上や離職率の適正化、そして採用力への直結といったことが挙げられます。求職者から見て、仕事内容や給与体系が似たような会社が複数あれば、それなら従業員のウェルビーイングが良い会社に入りたいと思うのは自然なことです。

既にアメリカでは、求人サービスにおいて会社ごとのウェルビーイング度が公開されるような時代になっています。日本でも今後、様々なプラットフォームで従業員のウェルビーイング度の開示が進んでいくでしょう。

【背景3】会社の「ESG格付け」に加わった

これは大企業向けの話かもしれませんが、ESG(Environment;環境、Social;社会、Governance;企業統治)の格付けにウェルビーイングが加わったという点も重要です。

先陣を切ったのはDJSI(Dow Jones Sustainability Indices)、S&Pが行っているESG調査です。2023年から、ESGのうちSの領域の一つとして従業員のウェルビーイングが組み込まれました。その結果が出始めた2024年頃から、特に大手企業を中心に、従業員のウェルビーイングはもはや取り組まざるを得ない項目になってきています。

もう少し先の話になりますが、CO2に関してはTCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures;気候関連財務情報開示タスクフォース)という情報開示の国際的な枠組みがあり、各企業がどれだけCO2を排出しているかの開示が進んでいます。

同様に、ESGのSの領域、つまりソサイエティに関して何を情報開示すべきかというところで、今まさにTISFD(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures;不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース)という枠組みが動き始めています。

現在のところ、Socialとはすなわちウェルビーイングであるという方向性が定まってきています。基準の完成は2027年末を予定しており、早ければ2029年から日本企業においても、企業活動を通じて人々のウェルビーイングにどのような影響を与えているかを情報開示せよ、という流れが始まりそうです。

「中間管理職」から「中心管理職」へ

では次に、マネジメント上どのような注意点が必要かという話を少しして、私からの話題提供を締めくくりたいと思います。

ここでのキーワードが、本日の副題でもある「中間管理職から中心管理職へ」です。
(関連コラム:「中心管理職」とは何か? ウェルビーイングなマネジメントのヒントを探る

従業員満足度やエンゲージメントという文脈であれば、中間管理職として経営の方針をしっかり現場に流し込む、上から下へという向きが極めて重要だったかもしれません。

しかしウェルビーイングという時代においては、管理職が中心となって、問いをきちんと浸透させていくことが重要になると考えられます。これを少し図式化してみたいと思います。

たとえば4人のチームがあって、黄色がマネージャー、青がメンバーだとします。ウェルビーイングでないチームは、関係性が上下しかない状態です。一方、ウェルビーイングなチームの特徴は、メンバーお互いの関係性が極めて良好です。

左側のウェルビーイングでないチームでは、マネージャーは上と下を繋ぐ「間」として存在しています。一方、右側のウェルビーイングなチームでは、マネージャーはチームや組織の関係を繋ぐ「中心」として存在しています。

どうやって関係を繋いでいくかというと、先ほど説明したようなウェルビーイングにまつわる「問い」を日々発することです。その結果、上下という関係ではなく、メンバーお互いの関係性がどんどん築かれていきます。

ウェルビーイングな人生には「居場所」と「舞台」がある

最後にひとつポイントを述べます。

皆さんご承知のとおり、ウェルビーイングはまだ黎明期にあり、「それは一体何なのか」というカチッとしたイメージがまだない状態です。そのため、ウェルビーイングを自由に考えてもらうと、風通しや居心地が良く、肩の力が抜けるようなイメージ=ウェルビーイングと捉えられがちだという印象があります。

そこで参考にしたいのが、福井県立大学の高野先生というウェルビーイング研究者の言葉です。企業の現場でもよく機能するのではないかと私自身も感じているキーワードが、「ウェルビーイングな人生には『居場所』と『舞台』がある」ということです。

「居場所と舞台」は、ある意味まったく性質の異なる場です。居場所というのはどちらかというと肩の力が抜けるような、まさに風通しがいい、居心地がいい、笑顔あふれるといったものです。

一方で「舞台」は、肩の力が抜けるというよりも背筋がピンと伸びるようなもの。舞台に立つということは当然緊張もするしストレスもかかります。

まったく違う性質の場ではあるのですが、舞台に立つという経験を通じて、その場が自分にとって居心地の良い場所になることもあります。逆に、居心地がよく風通しのいい場所があるからこそ、また次の舞台に立てるということもある。この居場所と舞台、まったく異なる性質のものが両方あることが、ウェルビーイングな人生を考えるうえで重要なんです。

お笑いは「緊張と緩和」であるという言葉がありますが、まったく違うものが揃うことで本当に笑えるということですよね。ウェルビーイングもおそらく同様に捉えていただくと良くて、「居場所と舞台」というキーワードをきちんと伝えておくと、ウェルビーイングについて問いかけたときに、肩の力が抜ける居場所の話だけでなく、「今週自分はチャレンジをしただろうか?」といった舞台の問いも自然と出てくるようになります。

ウェルビーイングがまだ黎明期でイメージが定まっていないからこそ、最初にピシッと伝えておくことで変な誤解なくウェルビーイングが伝わりやすくなる、というご紹介でした。

駆け足になりましたが、私からの話題提供は以上です。

ディスカッション

「中心管理職」として自身がウェルビーイングであるために大切なことは?

横山:石川さん、ありがとうございました。ここからはディスカッションパートに移ります。

まず最初の質問です。中心管理職として自身がウェルビーイングであり続けるために、どのようなことを大切にしていくと良いでしょうか?

石川さん:「中心」という漢字は本当によくできているなといつも思うんですが、中心というのは「心の真ん中」と書きますよね。だから中心管理職であるためには、まず管理職の方自身が、自分の心の中心について、自ら問うことが大事だと思います。

ご機嫌も不機嫌も周りに感染する性質があります。もちろん人間ですから常にご機嫌でいる必要はないんですが、少なくとも自分のウェルビーイングについて、自分で問うてみるのが大事です。

  • 「今週いつ仕事が楽しかっただろうか?」
  • 「今週楽しみな仕事は何だろうか?」
  • 「自分はどれだけ自己決定できているだろうか?」
  • 「仕事をするうえで自分が大切にしている価値観は何だろうか?」

人に問うからには、まず自分自身に問わなければいけないということですね。

別に仕事が楽しくなくてもいいと思うんです。そういうときもあるでしょうし、役立ち感を感じられないときだって当然あります。ただ、それは結果であって、重要なのは常に自分の心の中心について問い続けるということ。それが中心管理職としての第一歩なんじゃないかと思います。

横山:ありがとうございます。私自身も一人の管理職という立場で振り返ったとき、石川さんの言葉を借りると、「舞台」としての管理職の役割が今週果たせたかどうかという反省はたまにしているものの、自分の「居場所」としての問いを自分に投げかけられているかというと、そういう機会は少ないなと思いました。

ウェルビーイングの観点での問いを自分に向けることは、管理職自身の生産性にもつながってくるのでしょうか?

石川さん:もちろんあると思いますね。チームメンバーのウェルビーイングもマネジメントしなければいけない時代になっていますが、これはエンゲージメントとはかなり性質が違います。

エンゲージメントはどちらかというと会社都合の理屈です。ウェルビーイングは本当に一人ひとりの価値観によるものなので、一人ひとりに聞くことでしか掴めないんです。そうやってメンバーを気にかけて問い続ける様子が日常になればなるほど、ウェルビーイングはどんどん浸透していくと捉えてもらってもいいと思います。

エンゲージメントはKPI化されやすいので、数字が目的になってしまいがちなんですが、幸いウェルビーイングはそうはならないと思います。測定すれば数字は出ますが、それは目的ではなく単なる結果でしかない。あくまでもウェルビーイングを問いかけること自体が重要なんです。

横山:中心管理職であり続けるために、メンバーも含め自分にも問い続けるスタンスが非常に重要だということですね。

メンバーを観察し「居場所」と「舞台」のバランスをとる重要な役割

横山:次の質問です。各メンバーの「居場所」と「舞台」をどう両立させていくか? 管理職としてどういう役割を担えると良さそうかをお聞かせください。

石川さん:まずは「居場所」と「舞台」の両方が大事だという話を、繰り返し伝えていくことが大切ですね。このキーワードが出てくると、「今いるチームは自分にとっての居場所なのか? いや、自分にとっては舞台だ」という人もいると思います。今いるチームが居場所でもあり舞台でもあるというのが理想ですが、そうでなくてもいいと思っています。舞台と居心地の良い場所が別のところにあってもいい。

居場所と舞台を別の言葉で表現すると、居場所とは「何者でもない自分でいていい場所」で、舞台とは「何者かであることが求められる場」です。これは「健全な多重人格」とも言いますが、何者でもない自分と何者かである自分、いろんな自分がいることがウェルビーイングだよね、と最近は言われるようになってきました。

たとえば「同期」とはお互いが何者でもないときから一緒にいるから、その後どれだけ出世に差が出ようが同期として同じ仲間だよねという感覚を持てる場が「居場所」ですよね。学生時代の友達や、近所の居酒屋や飲み友達なんかもそうかもしれません。逆に、(立場や役割などのTPOに合わせて)ビシッとする場が「舞台」です。この緊張と緩和がとても大事なんです。

なので、一人ひとりを観察しながら、「この人にはもう少し舞台が必要だな」とか「この人はもう少し居心地の良い居場所が大事だな」というバランスを見てあげることが管理職の重要な役割なんだと考えます。

横山:なるほど、とてもイメージが湧きました。メンバーが自分のチームを舞台として捉えているのか居場所として捉えているのか、その他に舞台や居場所を持っているのかなどの現状把握が第一歩として重要なんですね。

管理職と人事でウェルビーイングをどう共創する?

横山:最後の質問です。ウェルビーイングな組織を作るために管理職と人事がどう共創できると良さそうでしょうか?

石川さん:間違ってもウェルビーイングを測定してそれを目標値にするということだけは、絶対にやめたほうがいいと思います。数値はあくまで結果として参考にしていいのですが、重要なのはウェルビーイングにまつわる問いを、経営陣も人事も管理職も発し続けるということなんだと思うんですよね。

たとえば経営陣であれば、「この施策でお客様のウェルビーイングにどう影響があるのか」「この人事施策は従業員のウェルビーイングにどう影響があるのか」というようにウェルビーイング目線で問いを発しながら意思決定していく。それが経営陣には求められると思います。現場の管理職は一人ひとりに問いかけることが大事で、そこで得た知見を人事側と共有するということになるのだと思います。

横山:なるほど。測定した結果は参考にしても、それを目標にしてはいけないと。目標にしてしまうと数字の上下に一喜一憂してしまい、本来的な意味がなくなってしまうということですね。

石川さん:真の狙いはウェルビーイングな組織づくりのためにウェルビーイングかどうかを問い続けるということで、そうすると全体として「居場所」に偏りすぎていないか、逆に「舞台」に寄りすぎていないかが見えてくるはずです。管理職と人事がそのバランスを整えていくことになると考えています。

横山:なるほど。組織としてどうあるべきか、管理職としてどうあるべきか、メンバー一人ひとりがこの組織の一員としてどうあるべきかを問いただすうえでのキーワードがウェルビーイングであり、そして「居場所」と「舞台」という二つの観点のバランスをとるため、日々観察し問うていくことが重要なんですね。非常に勉強になりました。石川さん、本日はありがとうございました!

石川さん:ご清聴、ありがとうございました!

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