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“A and B”の両立思考。大企業の矛盾を乗りこなすパラドキシカルリーダーシップとは? - 開催レポート【Management Success Studio】
“A and B”の両立思考。大企業の矛盾を乗りこなすパラドキシカルリーダーシップとは? - 開催レポート【Management Success Studio】

INDEX

2026年7月13日、京都大学経営管理大学院 副院長の関口 倫紀さんをお招きし、「“A and B”の両立思考。大企業の矛盾を乗りこなすパラドキシカルリーダーシップとは?」というテーマで、mento ウェビナー「Management Success Studio」を開催しました。

本記事では、そのウェビナー内容をお届けします。(司会:株式会社mento 藤田 隼)

なぜ今「パラドックス」なのか?

関口さん:なぜこのパラドキシカルリーダーシップを今日紹介するかというと、パラドックスや矛盾は、経営者やマネージャー、リーダーが必ず向き合わなければならないものだからです。

たとえば「リーダーシップとは何か」、あるいは「マネジメントとは何か」という問いへの答えとして、おそらく一番大事な要素として、矛盾したことを同時に行う必要があるという点があります。

もし矛盾が全くない状況で何かの仕事に集中したり、人に指示を出したりするのは、比較的容易です。しかしながら現実社会におけるビジネスや経営では、いろいろなものが対立、矛盾しています。

時代の移行期に顕在化する対立・矛盾

じゃあ、なぜそのような矛盾が起こるのか? その理由の一つは、今、大きな時代の転換期にあるからです。

たとえば工業化社会からデジタル社会への移行。最近ではAIも出てきました。時代が大きく変化する状況では、従来の考え方や価値観と、新しい考え方や価値観が同時に存在することになります。なぜならば「今日までは従来の価値観で運用して、明日からは新しい価値観で運用します」、という0か100かの急激なスイッチをすることはあり得ないからです。そのため、どんな組織においても、工業化社会型の組織とデジタル社会型の組織、両側面を抱え込みながら経営していく必要があります。

工業化社会の組織とは、たとえばコントロールを重視しています。コントロールを効かせ、物事を改善していくための階層型の組織が重要であったわけですが、よりデジタル化する未来の組織においては、自律分散型で創造性を重視するフラットな組織が重要視されています。

これらの違いは良し悪しではなく、両方追求していく必要があります。近年になって良く知られるようになった経営コンセプトの一つに、「両利きの経営」があります。両利きの経営とは、既存事業をきちんと守りつつ、かつ新しい事業機会を見つけていくために攻めていく。この両立が重要だということですね。

さらに広げてみると、サステナビリティ経営やダイバーシティ・マネジメントも問われています。社会のために企業がさまざまな取り組みを通じて、環境や社会への責任を果たしていくことが求められます。しかしながらこればかりに追われていては、企業が利益を出すことは難しいでしょう。ですから、社会のために貢献しつつも、きちんと利益を出して会社を維持していくということを両立する必要があります。

さまざまなレベルの対立・矛盾

このような対立や矛盾は、社会レベルから個人レベルまでに存在しています。例えば、以下のようにです。

  • 社会レベル:持続可能な社会と、その対極にある資本主義
  • 戦略レベル:環境や社会への貢献と、利益や株主への貢献
  • 組織・チームレベル:階層型組織と、フラット型組織
  • 個人レベル:ゼネラリスト型の人材と、専門性を極めたスペシャリスト

これら、お互いに対立して矛盾していると思われるものの多くは、よく観察すると「パラドックス」であることがわかります。

パラドックスとは何か?

このパラドックスとは何か?

パラドックスとは、対立していると同時に相互に関連しあっているものが存在し続ける状態です。

3つのポイントがあります。

  1. 対立し矛盾する要素が同時に存在すること
  2. それらは単に対立しているだけではなくて、相互に関連し、依存しあっていること
  3. 解消されることなく存在し続けること

たとえば、短期的な利益を追求することと、長期的な繁栄のために投資をすることはパラドックスです。

これは、どちらに資金を投入するかということで考えると対立しているように見えます。しかし、長期的な投資をしたからこそ、将来に短期的な利益が生まれる。あるいは、今出ている短期的な利益は、過去に長期的な投資をした結果とも言える。逆に短期的な利益を積み重ねることが長期的繁栄につながり、さらに長期的な投資ができるようにもなってくる。

このように、短期・長期どちらか、ではなくお互いに関連しあっているんです。短期的利益の追求と長期的繁栄の追求は、解消されることがなくずっと存在し続けるペア、すなわちパラドックスなんです。

ちなみに、このパラドックスの考え方は、トレードオフやジレンマとは異なります。トレードオフやジレンマは、どちらかを取ると、どちらかが犠牲になる。つまり、あちらを立てればこちらが立たないというような関係を示します。一方、パラドックスは対立しているけれども、お互いを必要としている、そういう考え方です。

代表的なパラドックス

代表的なパラドックスとして、新規事業の探索と既存事業の深化のパラドックス。先述した、工業化社会型組織とデジタル社会型組織。社会貢献と利益のパラドックス。協調と競争のパラドックス。自律性とコントロールのパラドックス。仕事と生活のパラドックスなどが挙げられます。

さらに、それぞれの異なるレベルにおいて、それぞれ独立してパラドックスが存在しているわけではなく、相互に関連して連鎖的に顕在化しています。

パラドックスは連鎖・相互作用する

戦略レベル、組織レベル、個人レベルの異なる階層間でパラドックスが相互に関連し、連鎖的に顕在化する構造を示すピラミッド図。

たとえば、戦略レベルで既存事業の深化と新規事業の探索との両利きの経営が求められると、組織レベルでも当然、伝統的な守りのマネジメントと、革新的な攻めのマネジメントの両方が必要になります。そうすると、個人レベルでは、既存事業に向いた規律重視の人材と、新規事業に向いたリスク志向型の人材、この2つのタイプの人材を協働させていく必要があることがわかります。

レゴ社の経営危機と再建の事例

レゴ社の経営危機の事例を紹介します。

レゴ社は皆さんご存じのとおり、レゴブロックで非常に有名な企業です。90年代半ばには世界45の事業所を持ち、9,000名の従業員を抱えるグローバル企業でした。その後、このブロックの特許が98年に失効して、ブロックのおもちゃのコモディティ化が始まりました。ゲーム機も一般家庭に普及し、子どもたちの遊び方が大きく変わっていったんですね。そして、創業以来の赤字に転落してしまいました。

レゴ社はこれまでのレゴからの脱却を図り、レゴの強いブランドを生かすべく、アクションフィギュアやテーマパーク増築など事業の多角化を図りました。しかし、これもまた失敗してしまいます。その後、2003年まで赤字傾向が継続しました。

レゴ社の危機を招いたパラドックスの悪循環

では、なぜこのようなことになってしまったのか?

レゴ社は創業以来、唯一無二のブロックメーカーとして成功していたものの、特許切れ後に競合が出現し、ブロックのコモディティ化が進展してしまった。この状態は、本来であればブロックという、このレゴ社が一番強みとしている商品を守り強化しつつ、新しい事業機会・ビジネス機会を追求していくという両利きの経営の必要性がある、潜在的なパラドックスの状態です。

しかし、レゴ社はこの両立の必要性を見出さず、過去の成功体験からレゴブロックの強化にのみ固執し、これが悪循環の原因となりました。

その後、業績の低迷が明確になったので、経営の多角化を図りました。「脱ブロック化」を掲げて、試行錯誤し、新規事業は最初は成功したものの長続きせずに失速。投資費用がかさんで収益が悪化。既存事業としての強みを持っていたレゴブロックそのものも、「私が知っているレゴではない」と言われるにいたり、「レゴらしさ」を失い、以前からのレゴファンも去ってしまいました。

ここでの悪循環の原因は、一転していわゆる新規事業の探索に力を注いだものの、その一方で守りとしての深化を忘れていたことです。

レゴ社再建に導いた、パラドックスの好循環への転換

この悪循環を打破した人物が、CEOに就任したクヌッドストープ氏です。彼が何をやったかというと、まずレゴは何のために存在する会社なのかを問い、従来の強みであったレゴブロックの商品企画に、まずは全精力を注ぐべきだと考えました。

そして、独自の商品シリーズを次々投入し、新しい事業機会を追求しつつも、レゴブロックの開発・製造からは離れないようにしました。つまり、レゴの持つ本当の価値に集中しようとしたんです。

それだけでなく、レゴブロックの強みを教育玩具としても生かし、たとえばMIT(マサチューセッツ工科大学)との共同研究によってプログラミングロボット教材を開発しました。また、レゴの熱狂的なファンを巻き込んだユーザー・イノベーションの活用や、サプライチェーンの刷新にも取り組みました。

さらに、自社のパーパスを「ひらめきを与え、未来のビルダーを育む」と明確化しました。このパーパスのもとで、既存の強みであるレゴブロックの周辺に、新たな価値を生み出す新規事業を展開していったことが、レゴ社復活の要因であると分析されています。

悪循環(どちらか一方を選択するEither/Or)と好循環(両方を追求するBoth/And)のサイクルを比較するプロセス図。

レゴ社の事例を少し整理します。前半の悪循環の局面は、「Either/Or」でどちらか一方を選択しました。たとえば、守りだけに集中して攻めを忘れた。あるいは、攻めに転じたんだけど守りを忘れた。そういう場合には、短期的には問題は解消するかもしれませんが、持続しません。選択した方法に固執し、他の方法を試さなくなり、結局、極端な経営の中で悪循環が悪化する。

一方、クヌッドストープ氏就任後のレゴ社は、レゴそのものの強みをしっかりと守りつつ、新たな事業機会を見つけるという、両方を追求する「Both/And」の方針に転換しました。いろいろ試行錯誤をしながら両取りしにいった結果、レゴブロックの強みを土台に新商品開発に生かす、逆に新規事業開発が既存事業の改善にもつながるような相乗効果が得られました。

繰り返しになりますが、その鍵を握ったのが「両立思考」のパラドキシカルリーダーシップです。

パラドキシカルリーダーシップとは何か?

パラドックスのマネジメントは簡単ではありません。しかし、これを実践するのがパラドキシカルリーダーシップだと考えています。

パラドキシカルリーダーシップを一言で言うと、対立・矛盾するが関連している要素を両方同時に追求するリーダーシップです。3つ特徴があります。

まずパラドキシカルリーダーシップは、パラドックスを認識し、肯定し、そのテンションやエネルギーを味方にすることです。

次に、「Either/Or」の択一思考ではなく、妥協せず、「Both/And」の両立思考でどちらも追求するというビジョンや行動に基づくリーダーシップと言えます。

最後に、パラドックスを恐れず、不安がらず、ダイナミックな意思決定や人々への勇気づけでパラドックスをやりくりするリーダーシップと言えます。

戦略レベルのパラドキシカルリーダーシップ

戦略レベルのパラドキシカルリーダーシップを見てみましょう。パラドキシカルな組織運営では、矛盾を抱えたまま組織運営を行いつつ、組織にある葛藤をやりくりし、建設的なエネルギーに転換します。

ここには統合的なビジョンと個別の目標が必要です。全体を包含するパーパスや理念を重視すると同時に、矛盾するそれぞれの個別要素ごとに具体的な目標を設定します。

戦略レベルにおいては、ダイナミックな意思決定が重要です。バランスを取りながら前進していくということで、迅速で頻繁で柔軟な意思決定を繰り返すという特徴があります。

次に、このミドルマネジャーによるチームレベルのパラドキシカルリーダーシップを紹介します。大きく分けて、5つの特徴があります。

  • 自分自身が中心となると同時に、メンバーを主役にさせる
  • メンバーとの距離を置くと同時にメンバーと近しく付き合う
  • 意思決定を統制すると同時に、メンバーに自由を与える
  • 職務への要求を厳しく追求するとともに、柔軟性を許容する
  • メンバーを画一的に扱うと同時に、メンバー1人ひとりを区別する

このように、組織や職場において対立するような要求に応えるため、一見すると矛盾する行動を同時に行うリーダーシップが、チームレベルでのパラドキシカルリーダーシップです。

パラドキシカルリーダーシップに基づく組織マネジメントの全体像

パラドックスからテンションが生じ、受容・分化・統合を経て創造と進化、持続的発展に至る組織マネジメントの動的平衡モデル図。

パラドキシカルリーダーシップに基づく組織マネジメントの全体像を示したのがこちらの図です。

まず、大事なのは一番左のパラドックス。パラドックスには必ず対立が含まれていますので、「テンション」(緊張関係)が発生します。このテンションを怖がらず、避けない。むしろ、このテンションこそエネルギーであり、何らかのチャンスであると捉えるのが「パラドックス・マインドセット」です。

この状況をチャンスと捉えたときに、どうやったらそれを乗りこなしていけるのか?

そのポイントが、まずパラドックスを受容し、それを分化して考えたり、逆に分化したものとを統合して考えたりしながら、行ったり来たりを繰り返すこと。

たとえば組織レベルでは、攻めの組織と守りの組織を明確に分業するときもあるが、両組織を統合したり、組織間のコミュニケーションをたくさん持たせたりというような形での統合をすることもあります。そのため、小刻みな変動を伴いながらそのバランスをとる「動的平衡」と表現されるような、カオスとゆらぎを絶やさない組織運営になります。

ここでは、資源配分、柔軟な組織デザインの変更、それから色々な商品・サービスの投入・撤退をダイナミックに意思決定していきます。このプロセスを繰り返しながら、組織としては創造と進化を促進し、持続的な発展を進めていく。そして学びを得て、レジリエンスも獲得していく、というのが全体像となります。

ここでリーダーに求められる重要な役割は3つあります。

①パラドックスを見つけ出し、パラドックスのセンスメイキングプロセスを主導する
②自分自身およびメンバーのパラドックス・マインドセットを醸成する
③パラドキシカルなリーダー行動とダイナミックな意思決定で、動的平衡を実践していく

リーダーの役割①:センスメイキングプロセスの主導

センスメイキングプロセスにおいては、パラドックスを見出して認識し、「テンション」を前向きに捉えます。組織の現場では、様々なもやもやがあり、どうすればいいかわからないという状況になることが多いです。このもやもやをクリアに問題化することになって、最初に見えてくるのは、ジレンマやトレードオフです。

たとえば、営業部門と製造部門で、それぞれ考え方が違うとか、それぞれの立場で良いと思っていることが相手にとってはそうではなく対立してしまう。一見するとジレンマやトレードオフに見えますが、この対立する関係は、お互いがお互いを必要としていると考えるのがパラドックスの見方です。

パラドックスであるとみんなが理解することが大事です。このパラドックスをうまく乗りこなすため、共通認識を作っていく。その際に、リーダーからメンバーに問いかけ、対話を通じて、このパラドックスへみんなで向き合っていきます。

リーダーの役割②:パラドックス・マインドセットの醸成

2つ目の役割は、マインドセットや思考スキルを醸成することです。その際に、「ABCDシステム」というフレームワークが役立つので紹介します。

A(アサンプション)、B(バウンダリー)、C(コンフォート)、D(ダイナミクス)の4要素から構成されるパラドックス・マインドセットのフレームワーク図。

ABCDの、Aはアサンプション、Bはバウンダリー、Cはコンフォート、Dはダイナミクスです。

横軸のアサンプションとコンフォートは、パラドックスに対する心構えと、パラドックスに伴う感情のマネジメント。「人間軸」とも呼びます。

まず、アサンプションについては、パラドックスは不自然なものではなくて常に存在するものだと考え、パラドックスをチャンスと捉え、勇気づけられるようなマインドセットです。

パラドックス・マインドセットが高い状態だと、実際にテンション(緊張関係)を感じていても、積極的に取り組んでいける状態になります。もしパラドックス・マインドセットが低い場合、テンションが高まると、何とか回避したい、ネガティブな行動に出てしまいます。

経験しているテンションの強さとパラドックス・マインドセットの高さによって、4つのゾーン(解決/解消、積極的実践、回避/逃避、準備完了)に分類するマトリクス図。

次に、コンフォートについて。パラドックスは、慣れないうちは心地よいものではありません。なので、そういった感情をコントロールする必要があります。ここで大切なのは、一見ネガティブで嫌に感じるパラドックスのある状況を楽しんでいくこと。まさにここにも、パラドックスがあります。

感情にまつわる研究では、「常にポジティブな感情が良くて、ネガティブな感情が悪い」というわけではないことがわかっています。ポジティブ感情には、たとえば視野や発想を広げる役割があります。逆に、ネガティブ感情は、視野を狭めます。

たとえば、漫才で言うと、視野を広げるボケ役と、視野を狭めることで引き戻すツッコミ役のような関係です。このボケとツッコミの緊張関係があることによって、漫才は面白くなりますよね。ポジティブ感情とネガティブ感情の両方が共存する、感情のアンビバレンスがクリエイティビティを高めると理解することが大切です。

感情のマネジメントにおいてユーモアも大切です。ネガティブなことを深刻に捉えるのではなく、面白いと捉える、笑いに変えるようなユーモアがパラドックスと向き合う不安や恐れを和らげ、ポジティブな感情を増加させるということが研究でわかっています。

リーダーの役割③:動的平衡の実践

リーダーの3つ目の役割は、動的平衡の実践です。先ほどのABCDシステムの縦軸にあるバウンダリーとダイナミクスにあたります。これは「文脈軸」とも呼びます。

まずBのバウンダリーについては、境界で緊張関係を包むことを意味します。

少し事例を交えて説明します。DDD(Digital Divide Data)というカンボジアで生まれた会社があります。DDDは、発展途上国で貧困かつ不利な立場にいる人を雇用しつつデジタル化のサービスを手掛ける社会的企業として設立されました。しかしこれは、貧困を救っていくということと、利益を出していくということの両立が非常に難しいビジネスモデルです。けれどもこの両立を実現していないと、その企業パーパスを実現することができないので、企業として存在価値が出ません。

そのなかで、DDDはどう経営したのか? 「構造化された柔軟性」というものを構築しました。

構造化された柔軟性とは、まずは自社の存在意義とパーパスをしっかりと共有させます。そのうえでガードレールを設けています。このガードレールとは、組織が試行錯誤する際にDDDが間違った方向に進んでいかないように、進行方向をガードするような構造です。

具体的に言うと、片方のガードレールは「社会問題の解決」で、もう片方は「収益を生み出すビジネス」です。それぞれを管掌する幹部の両方を経営に参画させることで、ガードレールの審判役を確保しつつ、それぞれ測定可能な指標を設定し、どちらかに偏りすぎたときに、“赤信号”が灯って反対に進むような構造をとりました。そうすると、社会貢献と利益創出を両立させながら進んでいくことができます。

このように、ガードレールという構造からはみ出さない範囲で柔軟に試行錯誤しながら前に進んでいくのが、構造化された柔軟性であり、境界で緊張関係を包むバウンダリーであるということです。

次に、ダイナミクスは動態性で乗りこなすという考え方です。これは動き続けることで平衡状態を維持することを意味しており、動的平衡モデルとも言います。パラドックスの存在を認識し、共有し、受容した後は、両方に対して注意を向け続けることで、両方実現するためのダイナミックな意思決定が必要になります。

これは、必ずしも常に両方を同時に実現するために努力することを意味しているわけではありません。

DDDの例のように、たとえば状況的に社会貢献に寄ったほうが望ましいと思ったら、そちらに多くの資源を投入する、けれども収益創出を忘れているわけではなく、状況が変わったら今度はビジネスに力を注ぐといった具合に。それと同時に、両方を組み合わせることで、新しい方策を考え、実験するというやり方もあります。ですから、一気に両方実現するような考え方だけでなく、それぞれを往来しながら前に進めるようなやり方です。

ここでも鍵になってくるのは、パラドキシカルなリーダー行動です。

自分自身が中心となると同時にメンバーを主役にさせる。メンバーとの距離を置くと同時に近しく付き合う。画一的に扱うと同時に1人ひとりを区別する。職務要求を厳しく追求するとともに柔軟な行動を許容する。意思決定を統制すると同時に自由を与える。

このような行動がメンバーのパラドックス・マインドセットを引き出し、両立思考の高いパラドキシカルリーダーシップのロールモデルとなります。

絶えず揺れている状態は、一見すると安定していないように見えますが、パラドキシカルな言い方をすると安定的に不安定と言えます。

最後に、動的平衡モデルのポイントを解説します。

物事を静態的に捉えるのではなく、動態的に捉えることが重要です。

組織や環境やビジネスなどは固定的なものではなく、常に変化しています。すべてが変わりゆくなかで、試行錯誤を繰り返し、即興的なアクションやセレンディピティ(偶然の出会い)を大切にする。それから、パラドックス・マインドセットに通じますが、変化を楽しみ、状況を見ながら対立する要素をうまくやりくりする。不安定な状態を継続することが安定を生む。非一貫性や矛盾を一貫して続けることが一貫性を生む。

このようなマネジメントが求められる時代になってきていると考えています。講演としては以上です。

ディスカッション

センスメイキングに活きる問いかけ

藤田:関口さん、ありがとうございました。ここからはディスカッションパートに移ります。

まず、「センスメイキングのコツ」についてお聞かせください。リーダーの役割のひとつとして、パラドックスのセンスメイキングプロセスがあり、このセンスメイキングを実践していくうえで、リーダーからメンバーに問いかけて、対話していくことが重要だというお話がありました。どういった問いかけ、あるいは対話をしていけると良いでしょうか?

関口さん:日々のマネジメントを実践していると、さまざまな問題が起こったり、もやもやしてなかなか解決に向かわないなということがあると思います。そのような対立や矛盾を感じたときに、メンバーとの対話のなかで、それらを積極的に話題として問いかけていくのが大事です。

すると、「私たち生産部門と営業部門が対立している」とか、「私たちはこう考えているんだけど、あの人たちはこう考えているから噛み合わない」などの話がいっぱい出てくると思います。その時に、「これって、こっちを立てるとあちらが立たないんじゃないか」「何かを犠牲にしないといけないんじゃないか、トレードオフなんじゃないか」という択一的な見方に辿り着くと思います。ですが、そこで対話を止めないで、「これって実はお互いに依存しあっているからパラドックスなんじゃないか」と、さらに問いかけを深めていくことが重要です。

一見すると対立しているように見えるけど、営業部門も生産部門も相互に依存する関係にある。全体像を俯瞰的に議論していくなかで、実はこれはジレンマやトレードオフではなくパラドックスだな、と辿り着けるんじゃないかと考えています。

システム図がパラドックスの共通認識をつくる

藤田:ありがとうございます。そのようなセンスメイキングプロセスのなかで見出したパラドックスを乗りこなしていくために、パラドックス・マインドセットの重要性を説かれていました。これをチームの中で育み、実践していくにはどうしていくと良いでしょうか?

関口さん:ありがとうございます。たとえば、以前実施した「パラドキシカルリーダーシップ養成講座」での知見を少し紹介すると、もやもやした状態からパラドックスを見つけ出すことによって、少し安心してマインドセットが定まっていくことが確認されています。

パラドックスの見つけ方については、物事をよく観察しながら、たとえば「自分の視点だけじゃなくて、同僚はどう考えているんだろうか? あるいは対立する人たちはどう考えているんだろうか?」という相手の視点に立って問題状況を捉え直す。あるいは、今起こっていることを俯瞰した全体図、いわゆるシステム図として書いてみるのがオススメです。

システム図について紹介します。何かをアウトプットしたときに、必ずフィードバックが生じます。たとえば、短期的利益と長期的な投資の関係がどうなっているのかを理解したいときに、まず、短期的なものに投資したことで何が変化したかを図式化します。たとえば、業務が効率化し、売上が伸び、結果利益が出るといった具合に。そのループのなかで、いろいろな障害によってループが止まってしまうことがあるかもしれない。一方、長期的な投資をすると、それが徐々に企業価値の向上に影響を与え、利益を生む。けれども、このループの時間間隔は非常に長い。

このようなことを、みんなで一緒に考えながら図で表現し、共通認識にしていきます。

日常的な期待値、心構え

藤田:チームとして矛盾を乗りこなしていくうえで、深刻に捉えすぎないようにするための共通認識を持つ必要もあるんだろうなと感じています。具体的には対立や矛盾というのは日常的に存在しうるものであるというような認識を持つこと。言い換えると、「対立や矛盾はない」という期待値を持たないことも、非管理職の従業員レイヤーでは重要だなと感じました。こういった前提でいるための期待値調整のコツを教えてください。

関口さん:これもやはり、たくさんコミュニケーションをとるなかで、日常的にパラドキシカルな状況に気づいたり、それについて言及したりすることが大切だと思います。そうすることでメンバーのメンタリティのなかに、「パラドックスがあることは別に不自然なことではなく、日常的に起こりうることであり、それがあるからこそ、たとえばその瞬間は居心地は悪くとも、それがエネルギーになって組織が活性化しているんだな」という発想につながります。

逆に、パラドックスがない状況を皆で想像してみるのも良いでしょう。起伏はなく平坦で安定しているように見えるが躍動感もなくなる。また、本来は相互に依存するものの片方がなくなるとどうなるのか。そのようなことを考えることで、パラドックスはあったほうが良いという前提が備わっていくのではないでしょうか。

藤田:俯瞰的な視点はもちろん、「行ったり来たり」というキーワードが、講演で触れられていましたが、相手の視点を考えることもそうですし、そもそも自分が相手の場に入り込んで観察してみるというのも重要なポイントになってきそうですね。関口さん、本日はありがとうございました!

関口さん:皆さん、ご清聴ありがとうございました。

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