
Head of Innovation 米澤香子さん
コーチは自分の内面を映し出す「鏡」。コーチングによって課題意識を推進力に転換できた、女性管理職のエピソード
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日本を代表する広告会社である博報堂と、米国の大手広告会社TBWAワールドワイドのジョイントベンチャーである株式会社TBWA HAKUHODO。同社では、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮できるよう、管理職向けにコーチングを導入しています。
今回は、Head of Innovationとしてイノベーション組織を率いる米澤香子さんにインタビューを実施。「自分に自信がなかった」という米澤さんがコーチングによってどう変化したのか、そしてコーチと話したからこそ実現できたDE&I活動とは何か、様々なお話を伺いました。
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グローバル研修への参加をきっかけに、コーチングへの興味が高まる

はじめに、米澤さんのこれまでのキャリアと、現在のお仕事についてお聞かせください。
米澤さん:
新卒から広告業界で働いており、当社が3社目です。主にテクノロジー領域で、クライアントの広告クリエイティブの制作、さらに広告の枠を超え商品やサービスの企画開発、イノベーション支援に携わってきました。現在はHead of Innovationとして、TBWA HAKUHODOのInnovation Hubという組織を率いています。当社は、既成概念を破壊し新たな価値を創造する「Disruption®(創造的破壊)」という哲学を掲げています。
この哲学を広告領域から外に派生させていきながら、お客様のビジネスに貢献していくことが、Innovation Hubの役割です。「Hub」と名がついている通り、全社にイノベーションを広げていく外向きの機能を持つ組織として活動しています。
米澤さんは管理職向けのコーチングを活用いただきましたが、以前はコーチングにどのような印象をお持ちでしたか?
米澤さん:
もともと、コーチングは自分にはあまり必要だと感じていませんでした。テクノロジー分野には女性が少なく、ロールモデルやメンターはいないものの、それなりにやっていくことができたからです。
しかしTBWAが開催するアメリカでのマネジメント研修に参加したことで、意識が変わっていきました。感情に波があるなかでモチベーションを常に高く保つには、クリエイティビティを最大限発揮するには、自分にとって理想的なリーダーシップとは何か——そういったことを探るためにグループコーチングのセッションを受ける機会があったのです。そこでグローバルリーダーの方々にメンタリングを重視している話や、パーソナルコーチをつけている話を聞き、興味が高まっていきました。
コーチングに期待していたことをお聞かせください。
米澤さん:
私は、業界のDE&Iに強い課題意識を持っています。しかし、なかなか同じ課題意識や危機感を持って対話ができる相手がいませんでした。もちろん、DE&Iに対する意識は世の中全体で高まっているため、大抵の人は賛成してくれます。しかし、賛成からアクションになかなか進まないのが現状です。
そしてDE&I活動はまだ有志による動きであるため、意識を強く保っていかなければ立ち消えになってしまいます。その火が消えてしまわぬよう、コーチに話すことで自身をモチベートしていきたいと考えました。実際に、業界にどう影響を与えていくかも含めて、積極的に対話をしています。
米澤さんがDE&Iに強い課題感を持ったきっかけを教えてください。
米澤さん:
新卒ではたくさんいた同期の女性も、年々第一線から離脱して、どんどんその数が減少しています。その背景には複雑な要因がありますが、「我慢できる女性だけが残ればいい」という考えのままでは、負の連鎖は断ち切れないと思いました。当社に入社したときも、女性のクリエイティブディレクターはおらず、女性がマネジャーとして育つ環境が十分に整っているとは言い切れない状況でした。意思決定をする立場の人たちに偏りがあると、クリエイティブにも偏りが出てしまいます。この状況を変えていくためには、女性が意思決定をするレイヤーに就き、積極的にDE&I活動を推進して改善する必要があると考えました。
コーチと「宿題」を決めたからこそ、具体的な行動を起こすことができた

実際にコーチと話す中で、どのような気付きがありましたか?
米澤さん:
最初は、コーチングはスポーツトレーナーのようなイメージで、指導を受けるものだと思っていました。しかし実際に話をしてみると、コーチは私の鏡になってくれる存在だと感じました。悩みに対してアドバイスをくれるのではなく、「私がなぜ悩んでいるのか」「その原因は何か」といった、私自身の中にありながら見えていなかったことを、鏡を通して可視化するような会話をしてくれるのです。コーチングとは、自分と話す時間なんだと思いました。
また、私はあまり自己肯定感が高いタイプではないのですが、コーチングを受けることで、自信をつけて物事を進めていくことができるようになってきました。私が取り留めもなく話したことをコーチはしっかりと受け止めて「米澤さんの発言や行動に救われている人はきっといますよ」「米澤さんには、こんな良い点がありますね」など、励ましながら私の強みを言語化してくれるのです。コーチと話した後は、もやっとしていた自分の思考にピントが合って、よりシャープに見えてくるようになりました。
具体的に、どんな対話から自信が持てるようになったのでしょうか。
米澤さん:
たとえば、私は人とのコミュニケーションに少し苦手意識を持っていたのですが、「米澤さんは、人の立場に立って物事を考えられる人ですね」とコーチから言っていただきました。また、他部署のメンバーが体調を崩した際、ちゃんと休みが取れるように、その人の上司に掛け合ったという話をしたら、「他の部署までケアしているなんて、なかなかできないことです。頑張っていらっしゃいますね」と言葉を掛けていただきました。私自身は当たり前だと思っている行動も、実は稀有なことであり私の良さなんだと、第三者の視点から聞くことで再確認できました。

DE&Iをテーマに話すことが多かったということですが、具体的なエピソードを教えてください。
米澤さん:
私がやりたいことを漠然と話すと、コーチが「では次回までの宿題として、具体的にまとめて来てください」と言ってくださることがあります。それにより、具体的なアクションを実現できるようになりました。
たとえば現在、社内でメンターシップ導入プロジェクトを、人事と共に進めています。そのきっかけは、グローバルのマネジメント研修に参加するにあたり、コーチと一緒に自分なりの目標を立てたことでした。グローバルでは日本よりもDE&Iが進んでいる国が多いため、この機会に各オフィスのDE&Iの取り組みや意識について直接聞いてみることにしたのです。ただ、なんとなく聞くだけでは自分の中に閉じてしまい、具体的な行動につながりません。そこでリサーチトピックをしっかりと立てて、ヒアリングの結果を後日コーチに報告するという「宿題」を決めました。
そして研修の休み時間に参加者に聞いて回った結果、見えてきたキーワードは「シスターフッド」でした。縦だけではなく横や斜めのつながりを社内で持ち、相談できる相手をつくることが大切だと、複数の人が話していたのです。そこからヒントを得て、メンターシップ制度を起案しました。コーチとの宿題として報告した内容は、役員に承認を得る際にも役立ちました。
米澤さんがDE&Iについて行動を起こすことで、周囲からどんな反応がありましたか?
米澤さん:
「メンターシップのプロジェクトを一緒にやりたい」と、自ら手を挙げてくれた女性がいたことは、嬉しい出来事でした。また、社外からも反響がありました。当社には「Peace Pirates」というDE&Iに関心ある人が組織横断で集まる有志のグループがあります。昨年、今年と国際女性デーに合わせてイベントを一緒に開催したのですが、それをきっかけに社内外からいろいろなお声がけもありました。DE&Iについて色々な場で発信することで、同志が増えるといいなと思っています。
「自分にしかできない仕事をしたい」と考える人すべてに、コーチングを勧めたい

女性管理職がコーチングを受けることには、どんな価値があると思いますか。
米澤さん:
一般的に、「男性よりも女性の方が管理職になることに対して自信がない」といわれています。しかし、それは女性に能力がないからではありません。能力はあるけれど、環境のせいで自己評価が低いだけという場合が多いのです。私もそうでしたが、コーチングによって自分の内面と向き合い客観視することで、本来の自信を持てるようになりました。だからこそ、女性管理職にはぜひコーチングを受けてほしいと思っています。
そしてこれは、女性に限った話ではありません。男性管理職でも、自分に自信がない人はいます。コーチングによって一人では気付くことができない自分を知ることができますから、忙しい中でも時間を割く価値があると思います。前時代的な働き方やリーダーシップがすべてではなく、多様な価値観があることに管理職が気付けば、一人ひとりが最適なパフォーマンスを発揮できる組織をつくることができるはずです。
どんな人にコーチングをお勧めしたいですか?
米澤さん:
与えられた仕事を漫然とこなすのではなく、そこから一段上のステージで自分にしかできない仕事をしたいと考えている人すべてにお勧めしたいです。自分にしかできないこと、及第点以上のことをするには、自分自身を高めていくことが必要です。コーチングによって内省することで自分を知り、自信を持って行動できるようになると思います。
最後に、米澤さんの今後の目標をお聞かせください。
米澤さん:
DE&I活動は引き続き積極的に推進していきたいです。社内も業界全体も、まだまだ偏りがある状況ですから、達成に何年かかるのかわかりませんが、その日が少しでも近づくように貢献していきたいと思います。そして私が率いるInnovation Hubは、まだ2年目の組織ですが、目に見える形での成果をしっかりと出していけるよう頑張ります。そのためにも、コーチングを今後も活用していきたいですね。

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